2013 Fiscal Year Research-status Report
インターネット利用における通常化・平準化理論の再構築と政治学的分析への応用
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25380183
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
岡本 哲和 関西大学, 政策創造学部, 教授 (00268327)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石橋 章市朗 関西大学, 法学部, 准教授 (40368189)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ネット選挙 / ネット選挙解禁 / 選挙運動 / メディア政治 / 政治情報 / 日本政治 / 通常化 / 平準化 |
Research Abstract |
2013年度においては、研究計画のとおりに、(a) 2013年参議院選挙候補者によるインターネット利用状況の把握、(b)インターネット利用が投票意思決定に及ぼした影響についての有権者調査、の2つの作業を実施することができた。 (a)については、2013年参院選候補者に関して、①ウェブサイト、②Twitter、③Facebookのそれぞれの利用の有無についての調査を行った。その結果として、ウェブサイトの開設率は93.8パーセント(433人中406人)、Twitterの利用率は79.3パーセント(433人中322人)、Facebookの開設率は87.5パーセント(433人中379人)であることが明らかになった。我々による従来の調査結果と比較すると、ウェブサイトの利用についてはほぼ飽和状態、比較的新しいメディアであるTwitterおよびFacebookについては、2013年4月19日の公職選挙法改正による「ネット選挙解禁」によって利用率の上昇が促された可能性があることが示された。 (b)については、2013年参院選についての情報にインターネットを通じて接触した経験がある1236名をサンプルとして、インターネットによる選挙情報の獲得行動とその影響についてのネット調査を行った。「選挙区候補者サイトへのアクセスが当該候補者への投票につながったか」について、諸要因からの影響をコントロールした上で、その確率は2010年参院選では9.91パーセントであったのに対し、2013年参院選では28.55パーセント(18.64パーセントポイントの増加)となったことが明らかにされた。これは、ネット選挙解禁がインターネット・ユーザーの投票意思決定に影響を及ぼしている可能性を示唆しているという点で、注目すべき結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度の研究期間内に実施された2013年参院選は国政選挙における初の「ネット選挙」であり、議員や候補者によるインターネットの利用を主たる研究対象とする本研究にとってきわめて重要な意義を持つ出来事であった。これについて、当初の計画どおりに、(a)2013年参議院選挙候補者によるインターネット利用状況の把握、(b)インターネット利用が投票意思決定に及ぼした影響についての有権者調査、の2つの作業を実施することができた。さらに、それによって我々が当研究分野に関して蓄積してきたデータと比較可能な調査結果が得られ、分析に着手することができた。ネット選挙解禁の影響についても、それが有権者の投票意思決定に影響を及ぼしている可能性が示されている。ネット選挙解禁について、実証分析によってその影響が検証された意義は大きいと考える。このように計画に沿った形で、おおむね順調に研究は進められている。 その一方で、議員や候補者によるインターネットの利用に関わる「通常化―平準化」現象に関して、(1)その度合いについてのより厳密で利用可能性の高い新たな指標を開発する、(2)その指標を用いて、先行研究では取り上げられることのなかった「通常化―平準化の度合いに影響を及ぼす要因」を明らかにする、という2つの研究課題への取り組みはついては、2013年度の中頃から着手し始めたばかりである。現時点では、そのためのデータセットの整備を進めているという状況であり、2014年度以降に本格的な取り組みを行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後においても、ネット選挙解禁後の選挙関連データと、われわれが蓄積してきた「解禁前」とのデータとの比較によって、ネット選挙解禁の影響を検証する作業を継続して行う。さらに、これらのデータとそれを用いた分析結果を利用することによって、国レベル・選挙区レベル・政党レベルにおいて「通常化―平準化」の程度を測定するための指標の開発を行い、その程度を規定する要因の検証を進めていく。また、今後の統一地方選挙の際にも、候補者によるインターネットを通じた情報発信行動の様態および有権者によるインターネット利用とその効果についての調査を行い、データの蓄積と分析を進めることによって、より信頼性の高い指標の開発を目指す。このように、研究課題の今後の推進方策については特に変更はない。 ただし、研究費申請時には予想されていなかった電子メールの選挙運動利用が一部認められたことによって、それについてのデータ収集と分析作業を新たに行うことになった。2013年参院選時における有権者のインターネット利用についての調査でも、それについての質問を行っている。分析作業は現在も進行中であるが、現時点で、①自らメール受け取りを希望してアドレスを伝えた有権者ほど、投票呼びかけメールからの影響を受けやすい傾向があること、②支持政党を持つ有権者と比較して、支持政党を持たない有権者は投票呼びかけメールからの影響を受けにくい傾向があること、が我々の分析によって明らかにされている。電子メールの効果に関する政治学的分析は、これまで不十分であった(Vaccari 2014)。今後実施される統一地方選挙時にも電子メールに関する調査を行うことによって、この面での貢献をも目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度に実施された2013年参院選は国政選挙における初のネット選挙であり、候補者によるインターネット利用状況の把握、およびインターネット利用が有権者の投票意思決定に及ぼした影響についての調査と分析を最優先させた。特に前者について、2013年度では候補者によるウェブサイト・twitter・facebookの利用の有無をまず確認して、その状況を速報的に社会全体に対して伝えることにも意義があると考えた。実際、それによって得られた結果は、研究代表者によって各種の選挙啓発事業などの場で社会に公表されている。その一方で、候補者がウェブサイトなどで「どのような内容」の情報を発信していたか、そしてその効果はどのようなものであったのかについては、分析作業への着手がやや遅れている。この分析作業は謝金の支払いを伴うものであり、その支出が2013年度になされなかったことが次年度使用額が生じた理由である。 平成26年度の「人件費・謝金」分に、今回の次年度使用額を合わせて使用する。使用目的は、候補者ウェブサイトの内容分析に関わるコーディング作業(①相互作用性、②情報提示、③プレゼンテーション、④アクセスの容易性の4つの機能に注目し、各機能に対応する項目内容がウェブサイトに備わっているかどうかを確認する作業が中心となる)を担当するアルバイトへの謝金である。仮に平成26年度中に衆議院が解散されて総選挙が行われることになった場合には「その他」に次年度使用額を充当し、選挙に関する有権者のインターネット利用とその効果についての調査において、質問数とサンプル数を確保することに努める予定である。
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Research Products
(5 results)