2014 Fiscal Year Research-status Report
インターネット利用における通常化・平準化理論の再構築と政治学的分析への応用
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25380183
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
岡本 哲和 関西大学, 政策創造学部, 教授 (00268327)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石橋 章市朗 関西大学, 法学部, 教授 (40368189)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ネット選挙 / ネット選挙解禁 / 選挙運動 / メディア政治 / 政治情報 / 日本政治 / 通常化 / 平準化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度においては、ほぼ研究計画のとおりに、2013年度に実施した2013年参議院選挙候補者によるインターネット利用状況調査の分析と、同選挙時に実施したインターネット利用が投票意思決定に及ぼした影響についての有権者調査結果の分析の2つを行った。特に後者については、岡本哲和・石橋章市朗・脇坂徹「ネット選挙解禁の効果を検証する――2013年参院選での投票意思決定に対する影響の分析――」関西大学『法学論集』第64巻第6号2015年3月1-25ページ、として年度中にその成果を公表した。そこでは、ネット選挙解禁が、有権者の投票先の選択に一定の効果を及ぼしたことが示されている。具体的には、自民党候補投票者および民主党候補投票者のどちらにおいても、候補者ウェブサイトとの接触があった場合には、ネット選挙解禁前の2010年参院選時と比較して解禁後の2013年参院選時の方が、その候補者に投票することになった確率が高かったことがインターネットを通じて選挙情報との接触経験がある有権者を対象とする調査結果の分析から示された。ここでわれわれが示した結果は、「ネット選挙」の効果について一般的な論調に対して見直しを促すものである。 また、今年度は2014年12月に衆議院選挙が行われた。同選挙はネット選挙解禁後の初の衆議院選挙となるため、それが候補者と有権者に及ぼす影響を明らかにするための調査と分析を行う必要がある。これについて、同選挙の候補者によるSNSを含めたインターネット利用状況の調査を実施した。さらに、2013年参院選時と同様に、インターネットを通じて選挙情報との接触経験がある有権者を対象とする調査を実施した。現在、これらの結果についての分析が進行している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度に続いて、2014年度においても国政選挙が実施されることになった。その2014年衆議院選挙は、ネット選挙解禁後初めての総選挙となった。衆議院選挙は政権の選択に直接つながる選挙となり、前年に実施された「二次的選挙」としばしば位置づけられる参議院選挙よりも、より重要であると認識されている。その衆院選におけるネット選挙は、議員や候補者によるインターネットの利用を主たる研究対象とする本研究にとってきわめて重要な意義を持つ。これについて、当初の計画どおりに、(a)2014年衆議院選挙候補者によるインターネット利用状況の把握、(b)インターネット利用が投票意思決定に及ぼした影響についての有権者調査、の2つの作業を実施できた。2013年参院選に関するわれわれの分析では、一般的な見方とは異なって、ネット選挙解禁が有権者の投票意思決定に一定の影響を及ぼしていることが明らかにされた。2014年衆院選についての調査が実施できたことによって、このような研究をさらに深化させることが可能となっている。このように計画に沿った形で、おおむね順調に研究は進められている。 一方、インターネットの利用に関わる「通常化―平準化」に関する指標の開発と、その指標を用いた「通常化―平準化の度合いに影響を及ぼす要因」の探求という2つの研究課題については、当初は2014年度以降に本格的な取り組みを行う予定であった。しかしながら、衆院選の実施による影響で、研究の進行がやや遅くなっている。ただし、これについても衆院選時の調査で新たなデータが得られており、今後の研究はより意義のあるものになると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究期間内に、ネット選挙解禁後の2つの異なる国政選挙関連データが得られたことは研究遂行上幸運であった。今後は、その2013年参院選と2014年衆院選の比較を行って、ネット選挙解禁の影響が一般的なものなのか、それとも選挙の種別に依存するものなのかについても検証を進める。さらに、ネット選挙解禁後の選挙関連データと、われわれが蓄積してきた「解禁前」とのデータとの比較によって、ネット選挙解禁の影響を検証する作業についても継続して行っていく。 このように、研究計画策定中は確率がさほど高くないと予想していた2014年度中の衆議院選挙が、実際には実施されることとなった。予算の前年度前倒し執行によって、その状況には十分対処できたが、2015年度中に当初予定していた統一地方選挙における有権者のインターネット利用とその効果についてのサーベイ調査の実施が困難となった。だが、この問題に対しては、2014年衆院選のデータが入手できたことによって、地方選挙データの欠落分を十分に埋めることが可能である。それゆえ、研究の遂行には問題はない。また、地方選挙については、多額の予算を必要とする有権者調査よりも、候補者によるインターネット利用状況に焦点を絞ってデータの収集に努める予定である。これらのデータとそれを用いた分析結果を利用することによって、国レベル・選挙区レベル・政党レベルにおいて「通常化―平準化」の程度を測定するための指標の開発を行い、その程度を規定する要因の検証も進めていく。このように、研究課題の今後の推進方策については特に変更はない。
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Causes of Carryover |
本研究は「インターネットと選挙」をテーマとしており、国政選挙などの重要な選挙の実施時には、候補者のインターネット利用の実態と、インターネット情報との接触が有権者の投票行動におよぼす影響についての調査を行うことが必要となる。当初は2014年度中に実施される確率が高くないと考えていた衆議院選挙が2014年12月に実施されたために、急遽2015年度分研究費からの前倒し請求を行って有権者調査等を実施した。これについて、調査票レイアウトの工夫などによって、効率的な調査費の支出が可能になった。その節約分については、前倒し支出によって削減された2015年度分の研究費に充当して、収集したデータの分析に関する作業を補完する方が研究目的の遂行にとって得策であると判断した。そのために次年度使用額が生じることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度の当初請求分については、2013年度および2014年度に実施した候補者によるインターネット利用状況調査と有権者による選挙情報で得られたアンケート調査の分析から得られた知見を補強するために実施する、インターネット利用に関する国会議員からの聞き取り調査のために主として支出する。これについて、東京出張を2回予定している。 次年度使用額分については、2015年度分研究費からの前倒し支出によって実施した2014年衆院選調査データのクリーニングとその補完作業に関わる謝金として主に支出する。選挙結果・選挙区の特性についてのデータの収集と入力作業を中心に、2人×25時間分の支出を予定している。これらに加えて、日本政治・選挙関連の参考図書を購入する。
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