2013 Fiscal Year Research-status Report
EU地域政策とマクロリージョンの研究:北海マクロリージョン戦略策定プロセスの検証
Project/Area Number |
25380185
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
柑本 英雄 弘前大学, 人文学部, 教授 (00308230)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マクロリージョン / スケール / ガバナンス / ステークホルダー / 北海 / EGTC / EU地域政策 / 領域的結束 |
Research Abstract |
EU越境地域政策INTERREGによって公式的政策領域として欧州政治空間に登場した「マクロリージョン」では、国家を頂点とする既存の堅牢な空間統治ヒエラルキーが崩れ、地方政府やNGOなどの利害関係者がガバナンスのルール作りに参加し始めている。本研究では、既存の政治空間スケールを越えたクロススケールの水平的ガバナンスが発現していることを明らかにする。初年度は、マクロリージョン戦略の比較の観点から、進展状況が先行する「ドナウマクロリージョン」における領域的結束の現状を調査した。既に「EUドナウ戦略(EUSDR)」が策定され、地域共通の課題に取り組み発展に向け動き出しているドナウマクロリージョンでは、欧州委員会地域政策総局が主導しマクロリージョンのガバナンス形成と政策調整を行っていると予想される。 これに先立ち、調査の準備として、EU研究者との討議を積極的に実施した。EU学会(11月、立命館大学)では、EGTCに関するハンガリー国境の状況について、出席者と議論を実施した。12月にはEU人権政策専門家を弘前に招聘し、この地域の国境沿いのマイノリティ分布についての討議も集中的に行った。1月に実施したドナウマクロリージョン現地調査では、ハンガリー研究の専門家のサポートを得て、ドナウ川流域のハンガリー・スロバキア国境に位置するEGTC(欧州における領域的協力団体)の各担当者へのインタビュー調査を実施した。成果として、マクロリージョンにおけるEGTCの役割、および、新たな結束形態の萌芽があることを確認した。また、EU地域評議会(CoE)のイニシアティブで、EGTCを形成するには未成熟であるが、越境協力を進展するための「別の形態」の萌芽があることも確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国家領域を基礎構成単位としない新しい地域「マクロリージョン」の登場が、EUの領域的結束にどのような変化を及ぼしたのかを分析するために、現在進展中のEUドナウ戦略(EUSDR)を先行事例として、「行為体」の内部の声をインタビュー調査ですくい上げることができたと考える。現状としては、EU主導型のドナウ戦略地域では、その趣旨や方法論が地方政府レベルまで共有されているとは言いがたいことが明らかになってきた。これは、北海戦略の策定過程から地方政府が積極的に関わっている北海地域との明確な違いであり、マクロリージョンの3つの形態の仮説が補強されたと考えられる。 「ファジーな境界で囲まれた柔軟な領域規模を持ち、隣接領域と重なり合う部分さえ有するソフトなマクロリージョンが、新しい政策容器として利害関係者の調整の場となっている」との本研究の作業仮説は、その利害調整を主導する行為体の意図や政治力によって形態が異なることからも立証できることが、本年度の調査から補強された。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、地方政府ネットワークである北海地域委員会(NSC)がガバナンス形成を主導する「北海マクロリージョン」に焦点を当て、ステークホルダーの観点も視野に入れ、政治決定メカニズムと権力共有システムの分析を行う。これによって、「州レベルの地方政府からボトムアップでガバナンスのルール作りが積み上げられ、州単位ネットワークによっても領域的結束を強化していること」を実証する。 具体的には、北海マクロリージョンの中心的行為体・英国アバディーン州政府とノルウェーのテレマルク州政府を調査する。6月下旬にアバディーンで実施されるステークホルダー会議に出席し、現在の状況のフォローアップを実施したい。ここでは、「北海マクロリージョン戦略」策定のロビー活動を当時担ったNSC前執行部と、戦略のEU公式発効実現の仕事を引き継いだ新執行部等にインタビューを行う。また、北海戦略執筆班リーダーや、最終草案の提出先である英国議会上院議員らにインタビューを行う。これにより、地方政府がEUの政策・資金を活用しながら、マクロリージョンを主導して、国家群とどのように交渉したのかを明らかにする。 この同時期に、ウィーンで実施されるバルト海戦略年次総会にも、できるだけ連接して出席し、資料収集と、ハンガリー調査のフォローアップに努めたい。また、その帰路、ブリュッセルに寄り、元EU拡大総局顧問と、北海のノルウェーとの連携、バルト海の東方との関係について議論をしたいと考えている。これによって、今後、マクロリージョン戦略そのものが、内向きのベクトルと外向きのベクトルのバランスをどのように図るのかが、予想できるようになると考えられる。
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Research Products
(1 results)