2013 Fiscal Year Research-status Report
「崩壊国家」と現代国際社会の秩序に関する研究:ソマリを事例として
Project/Area Number |
25380186
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
遠藤 貢 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (70251311)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際安全保障 / 国家形成 / ソマリア / ソマリランド / プントランド / クラン / 境界研究 |
Research Abstract |
平成25年度は、ソマリアの国際安全保障上の課題の一部を構成する北部ソマリアにおける「和解」過程の検証に焦点を当てた分析を実施した。北部ソマリアの「和解」過程の結果設立されたのが、北西部のソマリランドと北東部のプントランドを名乗る地域である。時間のずれを伴いながら進められた様々な「和解」過程の下で形成されてき両政体の「境界」領域においては、ソマリランドの「独立」やソマリアそのものの長期的な国家形成の問題にも大きく影響しうるきわめて興味深い政治的ダイナミズムが生み出され、この「境界」領域の不安定化にもつながってきたことを明らかにしたのである。 より具体的には、北部ソマリアにおける和解の過程と競合の中で両政府の狭間に位置する「境界」領域スール(Sool)のドゥルバハンテ(Dhulbahante)というクランの長老が1990年代初頭にはソマリランドで、そして1990年代後半にはプントランドにおいて、「和解」と政府樹立に大きな役割を担ってきた。しかし、両政府の樹立に向けた取り組みへの関与のあり方と「政治化」の帰結として「境界」領域におけるドゥルバハンテの伝統的権威は失墜し、本来のクラン内部における「和解」能力をも喪失する傾向を強めてきた。さらに20世紀初頭の植民地統治への抵抗運動としてのデルビッシュ(Dervishes)の記憶とも絡み合い、ドゥルバハンテの分裂を促進する形で、この「境界」領域の不安定化を助長することにつながってきた。その結果的、この不安定化がこの「境界」領域の帰属確定をさらに困難にする結果を招くことになったのである。 また、平成25年度は、最終成果物の刊行に向けての著作の構成を検討する作業も合わせて実施してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績において記述したように、従来「崩壊国家」ソマリアについては、主に南部ソマリアの問題が中心的な課題とされてきた。しかし、競合する政体の形成も含め、北部にもその「境界」に不安定化につながる要素が残されていることを明らかにする形で、ソマリア全体の目配りをする研究を実施できたことにより、ソマリアの抱える現代的な課題を包括的に提示できる研究を実施する形になってきた。「崩壊国家」ソマリアを取り巻く国際安全保障上の課題には、北部ソマリアの問題以外にも、2009年以降その活動が国際的にも注目されるようになったソマリア沖「海賊」や南部を中心に活動を展開してきたイスラーム主義勢力の問題の検討作業も残されているが、こうした問題領域に関しても一定の資料や情報収集を実施することが出来ており、次年度以降へのスムーズな研究の展開が可能な準備もなされている状況にある。ただし、当初予定していた海外調査を実施時間を十分に確保することが出来なかったことから、既知の研究者等からの情報提供を受けるなどの対応策を講じた。 こうした点を勘案すると、おおむね当初の計画通りの進捗状況なるものと判断される状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、すでに収集済みの文書や情報の分析をさらに行うことを予定している。また、本研究がねらいとしている21世紀における国家像の再検討を実施するための理論研究についても引き続き検討を加える予定である。本課題に関連した研究を展開している海外の研究者や実務家とも引き続き連絡を取りながら、情報交換を進めるとともに、必要に応じて海外での資料収集や聞き取り調査を加味する形で研究の推進を図る予定である。 また、成果についても学会報告、並びに論文での公刊といった形で着実に公開を進め、国内外の課題を提起する活動を合わせて進めていく予定である。最終的には成果をまとめた書物の公刊を念頭に置いており、その出版に向けた準備も進める予定にしているが、公刊に際する新たな助成の必要などについても今後検討を加えたいと考えている。
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