2014 Fiscal Year Research-status Report
「崩壊国家」と現代国際社会の秩序に関する研究:ソマリを事例として
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25380186
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
遠藤 貢 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (70251311)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際安全保障 / 崩壊国家 / ソマリア / 海賊 / テロリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、「崩壊国家」ソマリアにおける国際的な秩序への大きな課題として問題化されてきた、いわゆるソマリア沖「海賊」問題とともに、イスラーム主義勢力アッシャバーブに関する研究を進めるとともに、特にアッシャバーブの活動の中心となって北、ソマリア南部地域における紛争の構造的な要因ともなっている土地(とその利用)をめぐる問題について研究を進めた。 ソマリア沖で発生してきた「海賊」問題は、現代世界における最も深刻な国際的な海洋安全保障上の脅威として認識され、そのための日本を含む国際的な対応が迫られてきた。ただし、海賊被害自体は1990年代以降から存在していたものの、2008年に件数が急増しただけでなく、被害対象となる船舶が従来に比べ大型、かつ特殊なのもとなったことから、一気に国際安全保障上の懸案として浮上することとなった点にあった。現在「海賊」活動は下火になっているが、ソマリアの歴史的文脈を踏まえた観点から、改めてソマリア沖「海賊」の諸相とこの現象が提起している課題を再検討する作業を行った。 アッシャバーブにかんしては、その興隆のダイナミズムとともに、その形成の背景にも触れる形で検討を加える形での作業を行った。こうした検証を通じ、アッシャバーブが組織化や制度化を進めて来たことが、その領域的な支配につながってきたことは、アッシャバーブをイスラーム原理主義に立脚するテロ集団としてのみとらえることへの留保を迫る問題を提起している可能性を導出した。 南部に関しては、農耕適地が存在する南部での土地をめぐる対立軸が形成され、それが依然として存在している問題を検討した。そこには、「新たな定住者」として南部地域に流入してきた人々と、もともとこの地域に居住していたとされる「原居住者」居住してきた人々の対立の図式が見いだせることを検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績において記述したように、昨年度は特に北部地域における諸課題の検証を行ったことを踏まえ、新たに北部と南部を貫くソマリアの課題に関して、統合的な検討を加える作業を実施できたことは大きな収穫であった。とくに、本研究において崩壊国家として定義されるソマリアで生起している地域別、あるいはイシュー別の様々な現象はそれぞれが有機的に連関しているのであり、そうした連関を捨象したままで個別の問題に関する議論のみに終始することは「木を見て森を見ない」ことにもつながりかねないという危惧を有していたので、崩壊国家の下で生起している様々な問題群を改めて総合的に検討する視座の本で研究を推進できたことは、望まれる成果にさらに近づく形で研究を遂行できていると判断される。「海賊」問題やイスラーム主義勢力の問題は昨年度からの継続的な研究課題であったので、この点に関して大きな進展が見られたことは、非常に大きな進展であった。特に、平成27年度の出版を予定している単著の準備が順調に進んでいる点においても、当初目的としていた形で研究を進める形になっていると評価できるものである。 こうした点を勘案すると、当初の研究目的の達成に向けて順調に進展している状況にあると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度までの成果を一部学会報告として報告した。 最終年度に当たる平成27年度については、研究実績でも述べた成果の一部を複数の論文、そして単著として公刊する準備を進めている。その意味では、本研究の目的を極めて具体的な形で世に問う準備をしている段階にあるとも言える。幸い、平成27年度科学研究費助成事業(科学研究費補助金)(研究成果公開促進費)に採択され、現在この助成を踏まえる形での公刊準備を進める作業を行っている段階である。無論、本研究の射程に関係する課題は、理論、実務(政策対応)上、極めて重要な意義を持ちうる可能性を示し始めているところもあり、さらなる展開のための準備作業を併せて行う予定である。 単著公刊は、本研究の過程のひとつの成果ではあるが、対象としている事例に関しては、極めて流動的な状況にもあることから、これまでの成果をさらに深化させるための資料の検証を進める形での作業を継続していく予定である。
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Causes of Carryover |
海外での調査を予定していたが、調査対象との日程調整等が付かず、海外調査に出ることが出来なかったことから、主に資料収集を充実させる形で研究を展開したことから、20万円を次年度の繰り越す形になった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
所属先の学事日程が大きく変更されたこともあり、予定されていた海外での調査を実施できるかは未知数のところもあるが、研究自体はおおむね順調に展開できているので、海外での調査が出来ない場合でも、さらなる資料収集を行ったり、メールでの調査を実施することで、研究を深化させるために充当する予定である。
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