2013 Fiscal Year Research-status Report
グローバル・ガバナンスにおける公的権威の回復と国際秩序の超領域的統合
Project/Area Number |
25380199
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
山田 高敬 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (00247602)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | グローバル・ガバナンス / 人権 / 企業の社会的責任 / 欧州連合 |
Research Abstract |
平成25年度は、主に国連人権理事会(UNHRC)での国連企業人権枠組み・指導原則(通称、「ラギー枠組み・原則」)の形成過程及び同規範原則が欧州委員会のCSR(企業の社会的責任)政策にもたらした影響についてJ. ラギーの回顧録及び欧州委員会の公式文書を対象にドキュメント解析を実施した。具体的には、公的な権威である欧州委員会が、経済のグローバル化に伴って発生する「ガバナンス・ギャップ」を解消するために「指針的な」役割(国家、企業およびNGOなどの市民社会に対して共通課題の解決に向けて一定の方向性を示す指針を提供する役割)を果たしたかどうか、また仮に果たしたとすれば、それはなぜかという問いに実証的にアプローチした。同分析のねらいは、公的な機関が企業などの私的なアクターと権威を共有する「多中心的なガバナンス(polycentric governance)」において公的機関の「指針的なオーケストレーション」を可能にする条件を特定化することにあった。 欧州企業と非欧州企業との間のCSRパフォーマンス・ギャップや欧州連合と他の地域の貿易不均衡などの事実からすれば、欧州委員会の役割は「促進的なオーケストレーション」に限定されることが予測されたが、実際には欧州委員会は、非財務報告の義務化を含む「指令的なオーケストレーション」を実行したため、自由放任的な多中心的なガバナンス(L-PCG)ではなく、埋め込まれた多中心的なガバナンス(E-PCG)が発生するに至った。なぜそのような予測に反する結果が生じたのかについて、本研究は、欧州委員会のCSRに関する通達等の一次文献の通時的な分析を通じて「人権を守る国家の義務」の「適切性の論理」が「不平等な競争条件」から生来する「結果の論理」に優位したことを明らかにした。研究代表者は、同研究成果を2014年3月トロントで開催されたISAの年次大会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に、OECDの多国籍企業ガイドラインに関する分析はやや後回しになったものの、グローバル・ガバナンスの領域において最近国際的に注目を集めるようになっているオーケストレーション(orchestration)や多中心的なガバナンス(polycentric governance)といった理論的な発展に依拠しつつ、「企業と人権」の分野における欧州委員会の行動変化に関して完成度の高い実証分析を遂行することができた。第2に、その実証分析を通じて公的な機関による権威の回復もしくは私的なアクターとの権威の共有を可能にする条件をある程度特定化することができた。さらに第3に、第1及び第2の研究成果を2つの論文にまとめ、一つはグローバル・ガバナンスにおける規範の役割に関する専門書の中の一つの章として、もう一つは、カナダのトロントで開催されたISA(国際政治学会)の年次大会の人権セクションの研究報告として発表できた。主に以上の3点から、上記のような評価が妥当であると判断した。ただし、欧州諸国を含むOECD諸国の政府に対するアンケート調査は実施したものの、欧州連合加盟国政府によるラギー・フレームワーク及び原則の実施が欧州委員会の予想よりも遅延していることから、当初予定されていた欧州委員会のCSR担当者(企業総局及び域内市場総局)へのインデプス・インタビューを実施することは、残念ながら断念せざるを得なかった。また各国政府がまさにラギー原則の実施過程の最中にあり、多くの政府が政治的な理由から情報提供に消極的になったことから、上記のアンケート調査への回答率が低く、予定していた調査結果の統計的な分析を実施することはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、平成26 年度中にはEU内でのラギー原則の実施状況に関して中間報告がまとめられるとともに、同原則の実施に関する欧州委員会の優先項目が公表されることとなっているため、それを受けて欧州委員会の担当者に対して実施過程における障害として、立案過程においては取り立てて問題とならなかった新興国との貿易赤字の増大といった「不平等な競争条件」から生来する「結果の論理」が作用しているかどうかを検証する。可能であれば、EUレベルで各国経済団体の利益表出を行うBUSINESSEUROPEのCSR政策担当者からも、この点に関して情報収集を行う。 第2に、ラギー原則の実施過程をモニターする目的で国連人権高等弁務官事務所(UNOHCHR)内に設置された企業人権作業グループのコーディネーターを務めるL. Wendland女史、ならびにラギー原則の作成作業を支援し、現在その実施に必要なガイドラインの作成等を支援する人権・企業研究所(IHRB)のM. Wachenfeld女史らからラギー原則の実施状況について聞取り調査を実施する。とりわけ、ラギー原則を受けて、ホスト政府協定(HGA)において労働権を含む人権の保護が「安定化条項」から除外される傾向にあるかどうかを調査する。 第3に、比較の視座を得るために、EU以外で国際的な公的機関と私的アクターとの間で権威が共有され、超領域的な多中心的なガバナンスが実施されている事例を調査する。候補としては、国連グローバル・コンパクト内の様々なイニシャティブが考えられる。とりわけ国連は、EUと異なり、発展途上国の政府と企業との関係に直接的に影響を及ぼすことが予想されるため、欧州委員会による権威の共有とは異なる形での権威の共有が予想される。
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