2014 Fiscal Year Research-status Report
グローバル・ガバナンスにおける公的権威の回復と国際秩序の超領域的統合
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25380199
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
山田 高敬 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (00247602)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | グローバル・ガバナンス / 人権 / 企業の社会的責任 / 国連 / 欧州連合 / NGO |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究目標は、国連人権理事会(UNHRC)及び国連人権高等弁務官事務所(UNOHCHR)を対象に現地調査を行うことにあった。この目標は概ね達成できた。とりわけ国連企業・人権指導原則(UNGP)の実施状況に関してUNOHCHRの担当官から聞取りを行うことができた。この過程で、1.国連が企業とNGOなどから成るネットワークの形成を促進し、その結果UNGPを実施する世界的な動きが生まれたこと、2.国連が自ら直接企業のパフォーマンスをモニターするのではなく、競争的な環境の中で複数のNGOにそれを実施させ、企業間の「頂上への競争」の可能性を引き出そうとしていること、そして3. 一部の政府(エクアドルや南アなど)やNGOなどからは法的拘束力のある国際条約の締結要請があることを確認できた。また研究計画では国連とEUとの連携についても調査することになっていたため、主にEUレベルで活動を展開するNGOや欧州委員会の政策担当者に対して聞取り調査を実施した。NGOに対する調査からは、人権デューデリジェンスの義務化や「域外」法的救済の実現等に関して欧州委員会の規制的な権威の回復を強く期待する動きがあることが判明した。しかし、これに対して欧州委員会の担当者からは、そういった規制措置よりも、むしろ企業によるサプライチェーンの人権尊重や「責任投資」の方を促進したいとの意見を聴取できた。 したがって、この調査結果から、公的機関の権威回復を求めるNGOなどの声があるものの、EUやUNOHCHRなどの公的機関は、むしろNGOのモニタリング能力を強化し、NGOと投資家とを結びつけることで間接的にガバナンスの有効性を高めようとしているとの暫定的な結論を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
このように判断する理由は、人権分野での企業による自発的な規制に対する公的機関の反応に関して、国連(とりわけUNHRC及びUNOHCHR)と、この分野でこれらの機関と密接に連携する地域的な機関である欧州連合(EU)を対象に、概ね研究計画通りに、実証研究を実施できていると評価できるからである。より具体的には、初年度においてとくに欧州委員会が国連企業人権指導原則(UNBHRGP)を自己のCSR(企業の社会的責任)政策に統合した経緯について、第1次資料を基に実証的に分析できた上、第2年度には、EU、ならびにその加盟国がどの程度EUレベルでUNBHRGPを実施に移すことができたのか、またEUは同指導原則を実施するために如何なる政策を講じてきたのか、さらにUNHRC及びUNOHCHRは如何なる手法を使って、そのようなEUの努力を後押ししてきたのか等に関して、計画通り現地調査を実施できた。そしてこれらの調査研究から、UNOHCHRやEUの欧州委員会が一定の役割を果たしつつも、伝統的な規制的権威を単に回復するのではなく、これまでとは異なる方法で実効的なガバナンスに貢献しようとしている事実を確認できた点が、この研究の進展具合を肯定的に評価する所以である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の段階では、欧州議会の選挙を受けて欧州委員会の再編が進むなか、UNBHRGPの実施に関する欧州委員会の今後の方針がまだ明らかになっていなかったので、本年度、CSRに関する、欧州委員会の新たなコミュニケーションが出された後に、改めて欧州委員会のCSR政策の内容に関して聞取り調査を実施する必要がある。またこれまでの調査では、欧州議会においてUNBHRGPの実施を強く支持してきたRichard Howitt議員や、規制色の強いCSR政策の実施に反対の意を表明してきた欧州経団連(BusinessEurope)などから聞取りを実施できていないため、ぜひともこれらの重要なアクターからも聞取りを実施したい。さらにこれと並行して、UNOHCHRがどのようにして特定のNGOにUNBHRGPのモニタリングに関する権限を委ねているのかについても、国連機関の側だけからではなく、アムネスティ・インターナショナル(AI)やロンドンを拠点に活動する企業人権研究所(IBHR)からも聞取り調査を実施したい。またOECDによるUNBHRGPの実施に関しても、時間と予算が許す限り調査したい。これらの聞取り調査を通じて、当該公的機関が一定の権威を私的なアクターとの関係で取り戻し、それによってグローバル・ガバナンスの仕組みそのものを変えようとするプロセスを国際政治学的に把握したいと考えている。
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