2015 Fiscal Year Research-status Report
グローバル・ガバナンスにおける公的権威の回復と国際秩序の超領域的統合
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25380199
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山田 高敬 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (00247602)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | グローバル・ガバナンス / 人権 / 企業の社会的責任 / 国連 / 欧州連合 / NGO |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究目標は、OECD事務局及びOECD投資委員会のメンバーである政府代表、企業代表(BIAC)、労働組合代表(TUAC)及びNGO代表(OECDウォッチ)と、欧州委員会の雇用総局、企業総局及び域内市場総局のCSR政策担当者に対して本格的なインタビュー調査を実施する予定であったが、昨年の秋にパリで発生したテロ事件のため、パリ及びブリュッセルへの渡航の延期を余儀なくされた。その代わりに、平成26年度実施した国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)及び人権企業研究所(IHRB)並びに欧州企業正義連合(ECCJ)に対するインタビュー調査から得られた知見をもとにOHCHRの公的権威の回復に関する論文を執筆し、本年3月中旬に開催された米国国際政治学会(ISA)において同論文を発表した。当該論文では、多国籍企業に対して法的な拘束力を持つ条約の交渉を求める500団体以上のNGOが人権デューデリジェンスの義務化、投資・通商政策と人権基準の統合及び国際人権法の域外適用を求めて、国連人権機関や国際的な司法機関の規制的権威の強化を支持したのに対し、OHCHR(とくに国連企業人権作業部会)及びIHRBは、むしろ投資機関と協力して企業と人権に関するベンチマークを設定することで国連企業・人権指導原則を遵守させる方策を模索したことを明らかにした。つまり国連人権機関は、伝統的な規制的権威の回復ではなく、市場メカニズムを利用する私的なイニシアチブにお墨付きを与えることで自らの正当性の強化を狙ったことが新たな知見として得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
このように判断する理由は、OECD及び欧州委員会による権威の回復については予期せぬ事情により十分な情報収集ができなかったが、OHCHRに関しては、その企業・人権作業部会(WG-BHR)の機能及びIHRBや投資関連会社などから構成される私的なネットワークの役割などについて深く掘り下げて分析することができたからである。とりわけ私的なネットワークが企業の人権パフォーマンスを評価するための「企業人権ベンチマーク(CHRB)」を発案し、その革新的な方法論がWG-BHRを介してOHCHRに受容されたこと、またOHCHR及びWG-BHRが、潜在的に自らの伝統的な権威の回復に繋がる法的拘束力のある条約の締結ではなく、ソフト・ガバナンスを目指す国連企業・人権指導原則の実施を目指したことを聞き取り調査の分析を通して明らかにできたことは、研究上大きな収穫であったと言える。つまり法的な手法ではなく、人権に関して一定のパフォーマンス指標を設定することにより投資市場をレバレッジとして利用するガバナンス手法をNGOのネットワークが開発し、それを国連人権機関が後押ししたことを明らかにできたことは、国際組織の権威を考える上で重要な示唆を提供するものと言えよう。この点が、本研究の進展具合を肯定的に評価する所以である
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Strategy for Future Research Activity |
昨年、テロ事件発生のため断念したパリ及びブリュッセルでの聞き取り調査を実施することが可能であれば、改めてそれを実施する予定である。とりわけ本年度は、欧州委員会が新たなCSR政策のコミュニケーションを発表する予定であるため、その直後に聞き取り調査が実施することを検討している。今回、暫定的な研究成果を論文にしてISAで報告したが、その際頂戴したコメントや、ISAにおいて報告が行われた類似の報告から得られた示唆を踏まえ、私的なネットワークの実態についてより体系的な調査の必要性を痛感した。つまり公的な国際機関が伝統的な権威を回復する兆しが見られないなか、NGOからなる私的なネットワークが多国籍企業による負の影響を緩和する上で重要な役割を果たしているとすれば、どのようなネットワークが複数形成され、それがどのように相互作用あるいは重複しているのか、またこれらのネットワークと政府間機関はどのような関係にあるのかを体系的に明らかにする必要があるからである。本年度は、社会学の領域で使われるネットワーク分析の応用可能性について検討し、可能であれば、ロンドンに拠点を置くアムネスティ・インタナショナル(AI)、企業人権資源センター(BHRRC)、及びIHRB、そしてブリュッセルに拠点を置くECCJ及びその構成メンバー、さらにワシントンDCに拠点を置くICAR(国際企業説明責任円卓会議)などを対象にネットワーク分析を実施したい。最終的に分析結果をまとめ、学術誌に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
パリで発生したテロ事件のため、パリ及びブリュッセルで予定していた聞き取り調査の実施を延期したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度実現しなかったパリ及びブリュッセルでの実施調査が、安全上実施可能になった場合には、それを実施するが、充分な安全が確保できない場合には、それに変わる調査、をより安全な欧州の都市で実施する。
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Research Products
(2 results)