2013 Fiscal Year Research-status Report
戦後責任の国家意識と戦後補償 アジア女性基金と「記憶・責任・未来」財団の比較研究
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25380210
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | International University of Japan |
Principal Investigator |
熊谷 奈緒子 国際大学, 国際関係学研究科, 講師 (10598668)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 戦後補償 / 「記憶・責任・未来」基金 / アジア女性基金 / 道義的補償 / 戦争責任 / ドイツ / 慰安婦 |
Research Abstract |
日本のアジア女性基金とドイツの「記憶・責任・未来」基金を比較する本研究は、本研究者の先行研究に基づく。それによれば、アジア女性基金の失敗は、統一した国家意識の不在にある。この基金の道義的補償対象であった元慰安婦への、官民共同での公という意味での補償というアジア女性基金の意義付けに対して、保守もリベラルもそれぞれの立場(慰安婦言説の否定と道義的補償の不十分性)を譲らなかった。この妥協しない強固な姿勢の背景としては保守リベラルそれぞれにとって、アジア女性基金の道義的補償がそれぞれの存在論的安心を脅かすものと受け止めたからである。 しかし、アジア女性基金と同様な道義的補償を行ったドイツの基金の活動の予備的観察に基づけば後者においては、組織運営方法においてもアジア女性基金と違っており、またよく指摘されるドイツの統一的な国家意識も常に揺るぎのないものであったわけではなく、つまりナチス時代への反省も必ずしも統一的なものではなく、戦後にわたってホロコーストを相対化する修正主義的歴史記述の是非を問うた様々な論争もあった。 そこで、本研究は組織運営と国家意識の二つの要素の点からこれら二つの基金を比較することにより、戦後補償という20世紀に打ち立てられた新しい国際秩序の一方法の意義を考察する。よく挙げられる他の二点の要素、日本が旧西ドイツや統一ドイツが置かれた異なる国際的環境、そしてナチスドイツの戦争犯罪と戦中日本の戦争犯罪の相違が生み出す戦後における国家的反省の違いについても考慮する。 本年度はドイツの「記憶・責任・未来」基金の基礎構造と実際の活動を研究した。またドイツと日本の戦後補償全般の歴史を把握した。さらにアジア女性基金の内部資料を新たに入手したので、その組織的運営的側面の研究をさらにつめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本とドイツの戦争責任・歴史論争について本来十分な把握するはずであったのであるが、多少その方面についての研究が資料の読み込みが遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在遅れている、戦争責任・歴史論争についての両国の議論を本年度後半に読み込みを終えてまとめるのと同時作業として、今後はドイツ日本それぞれでの道義的補償に携わった人物へのインタビューを行う。主に戦後責任歴史論争についてと道義的補償の実際の事業における困難点や達成点、改善すべきであったと思われる点などについて聞き取り調査を行う。またドイツにおける戦後責任や戦争の記憶の仕方に付いてもよく学ぶために、ドイツにインタビューに行くがその際には、ドイツにおける戦争、ホロコースト関係博物館や記念館も訪問する。それによりドイツの戦争責任の考えが国家意識の中でどうかかわってきたのかについても考察を深める。日本側でもアジア女性基金の関係者にフォローアップインタビューを行うことで、アジア女性基金の基金としての機能についての完全な把握を目指す。 またこのドイツと日本での道義的補償の活動をニュルンベルクや東京裁判などもふくめた戦後和解活動の一環と位置づけ、ドイツと日本の和解の例を国際紛争処理論の理論的位置づける作業も行う。こうすることによって、この研究をケーススタディに終わらせず、他のケースへの一般化の可能性の存否を探ることもできる。具体的には、他の地域のケースの和解(たとえば北アイルランド)や和解方法(南アフリカの真実和解委員会)についても比較検討を行う。本年度の最後の3ヶ月からは執筆作業を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
既存の文書や書籍の読み込みに時間がかかり、新たに収集すべき資料の方にまで手が回らず、資料整理のために雇うはずであったリサーチアシスタントも雇わずじまいになり、人件費があまり使われなかった。 2年目の次年度はトピックの当事者インタビューをドイツで本格的に始める。当初の予定でも2年目にインタビューを行う予定で申請している。またアジア女性基金関係者へのフォローアップインタビューも東京で行う。 2年目中盤からは特に資料収集を本格的に行うのでリサーチアシスタントを雇う予定である。
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Research Products
(3 results)