2014 Fiscal Year Research-status Report
戦後責任の国家意識と戦後補償 アジア女性基金と「記憶・責任・未来」財団の比較研究
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25380210
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Research Institution | International University of Japan |
Principal Investigator |
熊谷 奈緒子 国際大学, 国際関係学研究科, 准教授 (10598668)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 「慰安婦」問題 / 戦後補償 / ドイツ / 「記憶・責任・未来」基金 |
Outline of Annual Research Achievements |
アジア女性基金、ドイツの基金「記憶・責任・未来」はともにいわゆる道義的補償をそれぞれの対象とする被害者、つまり慰安婦とナチ支配下の東欧の強制労働者に行ってきたが、被害者が補償を受け取ったか否かという意味では、前者は「失敗」し後者は成功した。両者のそれぞれ「失敗」と成功の諸要因を比較検討することで、本研究は日本とドイツの戦後における戦争責任の捉え方と国家意識の形成という根底にあると仮定される要因が個別の補償政策に与えた影響を考えることを最終目的とする。
上記で仮説とされたもの以外にも、本研究の比較では、被害者側、立法府、当時の政権、協力民間団体(国民や企業)とそれぞれの基金が事業準備実施においておこなった議論の展開、実際の協力体制、被害者がうけた被害の性質が被害者の尊厳にもたらした意味、それの補償への影響の違いなどの視点も検討する。
第一段階の研究の慰安婦問題の研究は早い段階でかなり進めることができている。日本語で昨年に出版した慰安婦問題の英訳版の出版の加筆修正は、この件の海外発信となり、大変重要であるので、丁寧な作業を心がけている。また慰安婦問題における呼称問題として「慰安婦」か「性奴隷」かということが国内議会などで、そして海外では国連などで2014年に特に問題になったが、それを踏まえて上記の二つの呼称がもつ道義的法的意味合いと政治的効果についての研究を論文発表した。戦後70周年を経る今日において、日本では今後の国家主体意識の形成に基づき、特にアジア周辺地域諸国と、過去を踏まえながらも未来に向けた建設的な相互理解と信頼醸成をしてゆくことが喫緊の課題となっている。本研究は慰安婦問題を通じて日本が過去、現在、未来の間で置かれている立場を明らかにすることに広義の意味をもつ。そこにおいてドイツとの慎重な比較を通して得られる知見も明確にする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アジア女性基金側の「失敗」の一つの要因とされる日本の国家意識を考えるにあたっての主要概念である存在論的安心の議論については査読付き学術雑誌に英論文で発表したが、当概念のさらなる明確化は可能でありそれを課題としている。 アジア女性基金のドイツとの比較研究としての成果を「アジア女性基金再考」という英論文で査読付き学術雑誌に発表した。この論文はアジア女性基金を中心としたものであるが、その再考にあたってドイツ側の基金の事業形態特徴などの比較視点を取り入れている。 ドイツ側の基金については初めての研究となるために、ドイツ側の資料収集と読み込みを集中的におこなってきた。ただ、ドイツ側の国家意識形成、戦後責任補償をめぐる議論の変遷については、日本語英語での文献も豊富にあるが、やはりドイツ語での読解を要求されるものも多く、またそもそものテーマが広汎であるために、そこにおいて時間がかかっている。しかしこれは比較においてコアとなるために丁寧な作業を心掛けている。 国家意識形成、戦後責任補償の日独比較については「罪」の意識の両国における違いという視点からの論文を、2015年5月におけるウィーンでの学会の発表に基づいて、この12月にドイツ語で出版する予定である。当学会は、哲学者を中心として和解、赦し、責任、罪、アイデンティティなどの概念を徹底的に議論し合うものであり、国際関係学としてのアプローチをとっている本研究を理論的に補強するために非常に有益であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はドイツ側の国家意識形成と戦後補償の考え方の発展についての継続的研究と、さらに両基金の組織的な機能について特に集中的に研究し詰めてゆく。後者においてはNGOの組織論なども組み入れながらさらなる分析を重ねる。また両基金の成果の差の第一の要因と研究者が仮定している、基金の補償対象となる被害者の受けた被害に対する国民の間における罪悪の意識と責任の認識の内容と程度を戦後における戦争責任と国家意識の変遷の視点から最終的な検証を行う。この点については、今年度前半はドイツ側の情報収集整理を継続して徹底して行い、後半にはそれに基づく議論の発展と執筆の形で十分集中する。同時に、アジア女性基金の方についても、シンポジウムや新規に出版される書籍論文などから徐々に収集されつつある追加情報についても整理しつつ、議論の発展に資するように組み込んでゆく。 特に罪悪の意識についてのドイツと日本の違いについては、前項で述べた12月にドイツ語で出版する論文とは別に、戦後における戦争責任論争を総合的に紹介しその特徴を説明する論文を来年初頭までに学術雑誌で発表し、それに対するするフィードバックをもとにこの要の議論を年度末までに十分に精緻化させる計画でいる。この部分は当該研究全体の理論的支柱を固めるためにも大変重要である。またその理論が国際関係学の枠組みを超えた学際的なもの、特に哲学、社会学の視点を含めたものになるという意味でも多方面からの批判、フィードバックを慎重に取り入れてゆく。
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Causes of Carryover |
収集資料を整理分類するための学生を雇いたかったが、日本語文献が多く、日本語が十分出来て、また当該仕事が十分できる条件の学生をがいなかった。また整理は空き時間に自分で何とかすますこともできた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
リサーチアシスタントは資料整理だけではなく、翻訳、情報収集といった広い形で採用してゆく。
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Research Products
(10 results)