2015 Fiscal Year Research-status Report
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25380212
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
安江 則子 立命館大学, 政策科学部, 教授 (20268147)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | EU / EU市民権 / 国籍 / 難民 / 移民 / 政治原則 / 近隣諸国政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、EUの政治原則研究の一側面として、第三国市民に対する国籍付与に関連するEU諸国の「連帯」(Solidarity)の問題を取り上げ研究を行った。 具体的には、次のような事例の研究である。加盟国が第三諸国の市民に自国籍を付与することは主権国家の権限であるが、その場合、当該市民は「EU市民権」を得て、域内を自由に移動し就業する権利を得ることになるため、EUによる介入の是非が問題となった。例えば、マルタが、近隣諸国などの裕福な第三国市民に高額で国籍を販売した事実に対し、これらの市民とマルタの間に国籍授与の理由となるような実態的結びつきがない場合は、EU域内の他の加盟国に居住する権利を得るための手段を提供してマルタが利益を得ていることになる。そのため、EUの基本条約上の原則である「誠実な協力原則」違反として、EUによる介入が認められるか否かが争われてきた。 また、ユーロ危機後の経済的な不況下にあって、2007年に加盟した東欧の国々からの域内移民の大幅な増加について、従来のように加盟国間での自由な就労を認め、自国民と同様の社会的福利を提供することについて、新たに制限を設けようという動向がある。こうした課題について、「国籍に基づく差別の禁止」原則に大幅な修正が認められるのかが争点となっている。この問題は、第一義的には域内問題であるが、第三国からの移民や難民の処遇とも絡んで論争となっている。今後、イギリスがEUに対して認めさせた特例措置やイギリスの脱退問題とも関連し、EU統合のあり方に大きな影響を与えると考えられるため、研究の射程を広げて検証したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究に必要な文献や資料などの情報収集は着実に進んでおり、関連テーマでの学会での研究報告や学会誌への執筆など、これまで3年間の研究はおおむね順調といえる。EUにおける難民・移民流入への対応とそれに関連した近隣諸国政策、またイギリスの脱退問題などと関連し、EU統合はまさに新たな局面を迎えており、こうした新たな状況に照らして、研究課題への焦点の当て方も修正している。近隣諸国政策における外交上の原則や、EU自らの行動指針としての政治原則に関して、新たな問題状況に対応させつつ研究を展開している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画のときに想定した以上に、EUへの中東や北アフリカからの難民・移民の流入の問題は、長期化・深刻化し、EUの対外的な政治理念や外交上の原則は、現実に直面する問題との関係で研究上の重要性を増している。加盟国や市民の間で、様々な意見の対立が表面化する中で、EUがこれまで積み上げてきた政治上、外交上の理念や行動様式が貫かれるのか、あるいはどのような修正がなされるのかに注目して研究していく。
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Causes of Carryover |
欧州での一連のテロなどを受けて、EUの諸機関や研究機関におけるヒヤリングやシンポジウムなどへの参加予定を見送った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、研究期間の最終年度として、EUの諸機関や研究機関などでのヒヤリング調査を実施予定である。
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Research Products
(3 results)