2014 Fiscal Year Research-status Report
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25380235
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
吹春 俊隆 青山学院大学, 社会情報学部, 教授 (40136031)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 一般均衡 / 税 / リンダール・メカニズム / シミュレーション / EU / パレート改善 / 公共財 |
Outline of Annual Research Achievements |
私の研究アプローチはシミュレーションにより一般均衡モデルの解を多数(1万個から2万個)計算し,それらの解の性質を調べるというものである.本年度は2つの国際学会で研究成果を発表した. 1.税の問題を吟味するに際し,通常は部分均衡が用いられ,一定の税収を確保するのに商品税が望ましいか,あるいは所得税が望ましいかが論じられる.しかし,そもそも何故その税収が必要とされるかは不問である.本研究では公共財を含む1国-一般均衡モデルにおいて社会では公共財をどれ程必要とするかという点から考察を始める.リンダール・メカニズムによる調達法をリンダール税と定義する.そこで決定された公共財の最適水準を実現するのにリンダール税,商品税,所得税,人頭税が比較され,商品税(=所得税)が望ましいとの結論を得た.人頭税では一般均衡の存在しない場合が構築され,サッチャー政権の失敗が説明される. 2.本研究では,EU(欧州共同体)は,まず,経済統合を実現し,更に,軍事・政治統合を実現して一つの欧州を実現する体制であると定義される.本研究では公共財を含む3国-一般均衡モデルを構築し,まず,生産関数(と効用関数)が同一であると仮定して経済統合前より統合後にパレート改善がもたらされ,更に第2段階の軍事統合でもパレート改善がもたらされ,最終的にパレート最適が実現するとのシミュレーション結果を得た.しかし最初に軍事統合,次に経済統合が行われるとこの事が実現しない結果を得た.この意味でEUの統合アプローチは合理的である.しかし,もし生産関数が同一でない場合,EUの第1段階はパレート改善でない場合が示され,これが現在のEUの抱える問題であると論じられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
公共経済学の研究対象は政府・政治体制が重要な要素を占める.この点からすると,上述の私の両研究は,1:政府による課税政策,2:国家の統合,であり,本年度の両研究は申請テーマに合致している.またそのアプローチはシミュレーションである.申請時の研究意義に書いたように,通常の経済学ではある命題の成立する十分条件を提示するのが大部分である.しかしそのように命題が100%の確率で成立する十分条件が示されたとして,その命題が「実現しそうか」と問われた場合には何も言うことができない.私の研究アプローチは生産関数や効用関数や初期保有をアトランダムに選んで均衡解を計算・吟味することでその命題が何%の確率で計算すると言うものである.その命題が成立するか,しないかという事を考えると50%を超える確率の場合,「その命題は実現しそうである」と言って良いであろう.2つのシミュレーション結果を得ているので順調であると自己評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
最近の『21世紀の資本』(ピケティ)の日本におけるマスコミの取り上げ方は諸外国と比べ「平等主義」的性格の強い日本社会の本質が現れているようで興味深い.ピケティを始め,クルーグマン,スティグリッツなどの著作は基本的に統計学的分析である.私は既にグローバリゼーション・イノベーションという観点からモデル構築を行い,その結果をジャーナルに発表した.最近,上述の著作や私の発表論文で問題とされたのは「国内的所得不平等化」であり,世界の各国の所得からジニ係数を計算すると,1990年代から「国際的所得平等化」が進んでいることが判明した.そこでヘクシャー・オーリン・モデルによりシミュレーション分析を行うとこの二つの事象が起こる確率はそれぞれ60%,3国・3階層モデルへ拡張すると70%の確率となることが判明した.今後は,このような所得の不平等の問題に取り組む予定である.
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Causes of Carryover |
申請時の計画では,来年度は基本的には「研究のまとめ」と位置づけ,海外での学会発表を1回と想定していたが,研究の進展状況を見ると来年度の海外学会発表を2回とし,更に新規の科研費申請においてその最終年度を現在の研究をも含めた「研究のまとめ」とする方が効率的であるとの判断を下し,本年度の「次年度使用額」を正とした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
申請時計画では来年度は500,000円の所要額としていたが,98,168円と合わせて2回の外国旅費(学会発表など)に使用する計画である.現在,2015年8月5日より7日までシンガポールで開催されるSingapore Economic Review Conference 2015での論文発表はアクセプトされている.
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Research Products
(4 results)