2014 Fiscal Year Research-status Report
人工市場を用いたオーストリア学派市場過程論の実験的分析
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25380245
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
谷口 和久 近畿大学, 経済学部, 教授 (80268242)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 人工市場 / 裁定 / 売買行動 / 交換の原理 / U-Martシステム / ザラバ市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究は交付申請書の研究計画に従っておおむね順調に進んでいる。今年度の研究は以下のようなものである。 市場における売買行動を交換行動から考察した。すなわち売買が行われる時にはその売買によって双方がなんらかの利得を得るという意味で売買主体の行動は同じ論理でなくてはならないはずであるが、なぜ同じ財に対して正反対の行動、すなわち売りと買いという行動様式が生じるのか、また1回の売買から得られる「利得」と「市場過程論」が想定する連続する複数回の売買すなわち、裁定による「利得」とは同じものであるのか。これらについて交換の原理から考察した。使用財は目的の達成にはある程度の時間が必要であるから、売手と買手もある程度固定している。だが投機の行われる金融市場では売手と買手は瞬時に入れ替わる。売買を行う二者の立場が瞬時に入れ替わる場合でも双方に利得が得られるような売買行動の原因と理由について考察した。 これらの理論的探索と平行して人工市場(U-Martシステム)による取引を行い貴重な実験データを収集した。平成26年度は8月と11月に本学の学生を主な実験参加者として人工市場実験(U-Mart実験)を行った。実験に協力した学生数はのべ40人近くになる。この一連の実験はコンピュータ・プログラムマシンとの共同参加実験であり、市場過程の分析との関連から一回限りの実験では得られることの難しい時系列に関するデータも得られた。とりわけ今年度は市場取引において、強い(利得を比較的に常に得ることのできる)取引者が偶然的であるが顕著に出現した。そこでこの取引者の戦略を当該取引者から聞き取り調査して、その戦略をマシン・エージエントに組み込むことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の二つの点からおおむね順調に進展しているといえる。 第1点は研究が目的とする交換と売買と裁定に関しての理論的な根拠を得ることができた点である。実験を行うことで実験データを得ることができても、そのデータの解釈と理解にあたっては、原理的なまた理論的枠組みが必要である。オーストリア市場過程論は生産物市場における売買から着想されたものであるが、昨年度から考察している「経済学の自然化」との関連で、その延長線上に、今年度は金融市場の売買行動と裁定行動を、基礎的・原理的な点から捕捉し理解できた。 第2点は、実験に関してはすでに開発済みのシステムを用いての人工市場実験(U-Mart市場実験)であるので、実験を繰り返すことで必要なデータが得られた。とりわけ平成26年度はのべ参加者数が40名近くになる実験を行ったが、その中から強い(取引において利得を比較的に常に得ることのできる)ヒューマン・エージェント(人間の取引者)が出現した。そこで、この当該取引者からその戦略を聞き取り調査し、その戦略をコンピュータ・プログラム・マシンエージェントのプログラムに反映させることができた。強い戦略を持ったプログラム・マシンエージェントを作成することができた。 これらの成果は進化経済学会で報告することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には交付申請書の研究計画の通り推進するが、今年度に得られた知見をうまく生かせるようにして進める。すなわち、市場過程論の核となる連続的な取引形態に焦点を合わせて、生産物市場と金融市場の売買を比較検討し、考察を継続する。 実験データに関しては、昨年度と今年度の2カ年の実験から必要とされるデータはほぼ得られているので、来年度は補足的な実験に限って行うこととし、理論面で、交換と価格に関して、生産物市場と金融市場の相違や関連性を考察して行く。 なお、人工市場研究は国内だけではなく、海外でも行われているので、これまでに得られた知見をまとめて、海外においても報告していく予定である。
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Causes of Carryover |
研究報告のための出張に関して、本助成金から執行しなかったからである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
残金は海外報告のための論文作成費用の一部に充当する。
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Research Products
(1 results)