2015 Fiscal Year Annual Research Report
人工市場を用いたオーストリア学派市場過程論の実験的分析
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25380245
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
谷口 和久 近畿大学, 経済学部, 教授 (80268242)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 人工市場実験 / 価格 / 売買 / 板寄せ方式 / 交換の原理 / オーストリア学派 / U-Mart実験 / 裁定 |
Outline of Annual Research Achievements |
人工市場実験によって得られた売買データを使って,金融市場において売買と裁定が行われる様子を時間経過に沿って詳細に追跡分析した.とりわけ「板寄せ方式」と呼ばれる取引方法では取引者の売買希望価格を「呼値」として外部から観察できるので,これを参照して行なわれる取引に関して調べることができた.詳細は発表論文に譲るが,呼値と評価の関係が「交換の原理」を用いて明確にされた.簡単に述べると次の通りである.すなわち,金融指標先物取引として,板寄せの板ができているとしよう.「最良売気配値」とは板に現れた最も低い値の売り注文であり,また「最良買気配値」とは最も高い値の買い注文である.呼値とは売手と買手の希望する売買価格であり,売買実行されるとき,交換ベクトルと価格ベクトルは広い意味で直交する.よって売買対象の財に関して,交換ベクトルが決まれば価格ベクトルは決定する.あるいは価格ベクトルが決まれば交換ベクトルが決まる.
オーストリア学派のミーゼスは,(金融市場において)価格は価値評価が等しいから生じるのではなく,価値評価に懸隔があるから生じると述べた.しかし,「交換の原理」からこの主張は正確ではないことがわかる.正確には価値評価に懸隔があるだけではなく,その懸隔はある範囲内 (価格ベクトルを超平面としてその両側) になければならない.そうでなければ売買取引を実行する根拠がなく,結果として市場に約定価格は出現しない.
さらに,売買と裁定は異なるものであり,その動機と帰結も異なるものであることがわかる.すなわち売買は,価格とは明確に区別される評価が売買当事者間で相違することによって実行されるのであるが,裁定の成果は少なくとも2回の売買取引を実行することで得られる.その意図は利得の獲得であるが,経済的帰結は必ずしも正の成果を生まない.これらのことが幾つかの実験データから明示的に確かめられた.
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Research Products
(2 results)