2013 Fiscal Year Research-status Report
イギリス限界革命期のミクロ経済学の形成:不均衡論の視点の現代的意義
Project/Area Number |
25380255
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
中野 聡子 明治学院大学, 経済学部, 教授 (20245624)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 経済学史 / 限界革命 / 不均衡 / エッジワース / マーシャル |
Research Abstract |
本研究は、イギリスで1870年から1890年にかけて、不均衡論的分析視点が均衡論のそれよりも先行する形でミクロ分析が構築されつつあったことを明らかにしようとするものである。特に、エッジワースとマーシャルの対立を不均衡理論と均衡論という視点で包括的に精査することである。昨年度は、この対立を論証するための問題の明確化と資料整理のにあてられた。1.問題の明確化:両者の対立は書評論文(1890以降)にて概要がすでに見いだされたが、その対立はアウシュピッツとリーベン(1889の著書)の包絡線の議論を端緒としていることがさらに明らかとなった。通常の包絡線定理に関する経済学史的理解(1930年代にヴァイナーとハロッドを起点)と異なり、包絡線の問題は、1890年を起点にエッジワース的理解とマーシャル的理解の対立のベースになっているということが見いだされた。この視点から、書簡、論文、覚書等の資料を精査することで、本研究のターゲットとなっている結論を論証する包括的な分析が可能になることがわかった。このことが最大の成果であり、論文、経済学史学会、History of Economic Society で報告した。2.資料整理:1の視点から、既存の関連資料は再検討可能になる。マーシャル、エッジワース、バーター論争の関係者、収穫逓増問題、包絡線の議論関係者の書簡、覚書類は、マーシャルの視点から精査が成し遂げられているが、1の問題の視点から整理、再録、検討がなされていない。(1)エッジワースからマーシャルへの手紙が追跡されてないものが多い。(2)両者が直接の対立を避けて、迂回的、第三者を挟んだ場合、資料整理の包括的視点を欠いている。(3)ハロッドとエッジワースは書簡にて、1の問題の継承関係を跡づけることができる。日本で入手可能な資料を入手し整理し、海外調査の必要なものの目録を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究全体の中で、あまり時間をかけられなかった部分は、ジェヴォンズとエッジワーの実証研究と統計分析に関連する部分である。この点に関する両者の問題意識の継承関係とマーシャルとの対立関係は、資料的にも内容的にも別途アプローチが必要である。当面、ジェヴォンズの17年間にわたる30品目の週単位の物価データを入力中で、彼の統計分析を跡付け、現代の統計学の知見からジェヴォンズのデータ処理がどこまで妥当であるかを検討中である。そのうえでエッジワースの統計関連の論文の内容を精査したい。現代的に見て未完成の統計的分析を含めての評価となると、未開拓であり時間を要する研究である。 他方、エッジワースとマーシャルの『原理』をめぐる対立関係の資料精査は、予定より進展している。初版、第2版、第3版から8版にいたるまで変遷の資料整備とその内容分析については、ほぼ精査を行った。予想と一致ないし予想以上の論証可能な資料を整理することができた。また、今年度および来年度に予定していた1.エッジワースの理論研究の波及過程、影響 2.エッジワースの伝記的資料の精査、この2点に一部踏み込むことができた。1.に関しては、1920年代の収穫逓増と競争の両立に関する論争ならびに不完全競争の理論に与えた影響を、包絡線の議論の文脈で問題を明確化することによって扱うことができるようになった。つまり、エッジワースとマーシャルの対立が、その後の経済学の展開に影響を与えていることを跡付けられる。しかし、本研究の目的であるより深いところの影響、波及関係にまでは、踏み込めていない。市場を構成する具体的な制度的仕組みのなかに経済メカニズムを志向するエッジワースの思想的特性やその意義に踏み込んで、内実を明らかにできることが今後の課題である。来年度に取りかかろうとしていた、2.についてはすでに着手し始めているので、今後の進展に拍車をかけたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の分析視点の深さという点で、研究目的に挙げられている課題で是非取り込みたいと考えている点は次の点である。1.経済のメカニズムとして、需給均衡とともに、ルールや規範、法や正義、制度や慣習を議論に取り込む余地が、ジェヴォンズやエッジワースにどの程度あるか。特に、彼らの功利主義的問題関心と関連させて。2.ジェヴォンズやエッジワースは、情報の不確実性、統計的現象としての不確定性についてどのような理解を有していたか?そのため、市場を補完する制度についてどのようなものを念頭に置いていたか?3.エッジワースは、エコノミック・ジャーナル等の経済学の専門誌で執筆、編集を行った。これらの専門誌を通じた経済学研究のスタイルが、エッジワースの研究計画の伝播、波及にどの程度貢献し、現代経済学の形成に関わったか?エッジワースとマーシャルの対立という論点を、皮相的な論争に終わらせずに、現代経済学の理解につながるものとして分析するには、以上のような視点からの分析がさらに必要であると思われる。この方向性を意識して、今後の研究を推進したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.北米で開かれるHESの学会参加にかかる費用が、見積もり額より下回り、次年度に持ち越された。 2.文献検索のアルバイトの雇用契約を結んでいる人が、週3回の勤務に就くことが難しい事情が発生し、人件費が次年度に持ち越された。 次年度使用額の使用計画は主に次の点にある。 1.資料のスキャン(特に資料検索のアルバイト担当者が使用する)、また資料収集に使用予定のノートパソコンの購入。 2.アルバイトの雇用契約が、週3回の勤務が可能になったので、人件費として使用する。
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Research Products
(3 results)