2014 Fiscal Year Research-status Report
初期近代イギリスにおける信用の制度化をめぐる議論とその論争点
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25380259
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Research Institution | Ohtsuki City College |
Principal Investigator |
伊藤 誠一郎 大月短期大学, 経済科, 教授 (20255582)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 経済思想 / イングランド / 17世紀 / トレイド |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)26年3月に刊行した「十七世紀イングランドのトレイド論争」(田中秀夫編『野蛮と啓蒙』所収)では、漁業を中心としたオランダ経済・社会の利点を十七世紀のイングランドのパンフレッティーアたちがイングランドもそれを見習うべきとしていたことを明らかにしたが、そのための資料調査過程で、上記論文で利用した文献を遙かに上回る量の関連文献があることがわかり、25年度にひきつづき26年度にもそれらの文献を収集・検討した。そのために、26年9月、27年2月にそれぞれ10日間程度ロンドンに滞在し、ロンドン大学図書館や大英図書館を訪問した。(2)26年5月にスイスのローザンヌで開催されたヨーロッパ経済思想史学会(ESHET)で、‘What should the English learn from the Dutch?’を報告し、そのフルペーパーでは、とくに17世紀前半に、多くのイングランドの漁師や商人が、草稿やパンフレットを書き、イングランドの経済の繁栄のためには、オランダの漁業技術をまねるべきだと主張していたことを明らかにした。(3)26年7月にニュージーランドのオークランドで開催されたオーストラリア経済思想史学会(HETSA)で、'Neighbour country, Holland: an ideal model to follow, or just an enemy?’を報告した。これは、5月にESHETで報告した原稿の続編に相当するものであり、17世紀の後半には、漁業技術というより、むしろオランダ経済・社会全体からなにをまねるかのリストを多くのパンフレッティーアが作成し、別途大きな論争を引き起こした、銀行設立、利子率の引き下げ、不動産登記はそのリストの一部として取り上げていたことも明らかにした。これら三つの点をめぐる論争についてはこれまで私自身が別の論考で明らかにしてきた。上記のESHET、HETSAの2報告の原稿は、その前史、前提を明らかにする試みでもあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の計画では、24年にロシアで開催されたヨーロッパ経済思想史学会(ESHET)で報告した、1690年代の法定利子率引き下げをめぐる論争を論じた原稿'interes Controversy, the second round'をさらに改良し、オーストラリアの経済思想史学会(HETSA)で報告する予定だったが、1670年前後の利子論争を扱った'Interest controversy in its context'が、投稿した英文学術雑誌にリジェクトされ、その際のコメントで不足しているとされた点は、その多くは私自身別稿で多く論じていることであり、25年度あたりから進めている、イングランドの漁業を中心とするトレイドに関する論争史や、これまで銀行や土地投機に関して書いて刊行した英語論文と合わせて、単著としての刊行を目指すことをきめ、研究実績の概要でもしめしたように、17世紀の漁業やトレイド全般をテーマにした論争についての研究を集中して進めた。他方で、当初の予定通り、17世紀末における土地銀行論争の研究もすすめ、その一部を27年1月に京都で開催された、社会思想史研究会という小規模のセミナーで'Land-bank projects after the establishment of the Bank of England'として報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」にも書いたように、今後は英語での単著の刊行を念頭におきながら研究を進めていく。27年2月から3月にかけて、Institutionalising English economyというタイトルの英文単著のためのbook proposal(本文だけで5000語超)を作成し、27年度の前半に複数の関連研究者に送り、コメントを依頼し、それに基づいて段階的に改良し、27年内には出版社に提出し、審査をしてもらう。出版には、多くの作業と時間を要すると思われるが、その都度必要に応じた対応をしていく。それと並行して、26年度に報告した2つのトレイド論争関連論文は、さらに二次文献や政府・議会資料についての情報を捕捉し、完成度を高めていく。また、土地銀行論争関連論文も、引き続き改良し、26年1月に京都で報告した原稿を大幅に拡張改良したものを、9月に予定されている小樽商科大学でのヨーロッパ経済思想史学会と日本の経済学史学会の合同セミナーで報告する。ちなみに、私はこのセミナーの開催の運営委員の一人でもある。
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