2015 Fiscal Year Research-status Report
ビアトリス・ウェッブの福祉経済学の研究:フェミニズム・福祉国家論・社会経済学
Project/Area Number |
25380260
|
Research Institution | Nagaoka National College of Technology |
Principal Investigator |
佐藤 公俊 長岡工業高等専門学校, 一般教育科, 特任教授 (00178716)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | ビアトリス・ウエッブ / アルフレッド・マーシャル / ハーバート・スペンサー / カール・マルクス / 制度主義 / 進化主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、若きビアトリス・ウエッブの福祉経済学の形成過程の研究を深め、ビアトリス・ポッター時代の社会経済思想の把握に努めた。特に社会経済思想の内の社会学的経済学と社会病理学の形成について、1886年と1887年の未発表の論文と、彼女とスペンサーとの論争的な意見交換を検討し、「若きビアトリス・ポッターの経済学の形成」の報告を行い、原稿を提出した。また、関連する方法論の論文として「宇野段階論における主体、制度主義、社会経済的領域構造―社会的必要労働の商品経済による包摂・編成の進化―」の報告を行い、原稿を提出した。 1、平成27年3月東京都の埼玉大学東京ステーションカレッジにて行われた仙台経済学研究会にて「若きビアトリス・ポッターの経済学の形成」の粗稿を報告した。同年8月仙台市の東北大学にて行われた仙台経済学研究会にて同論文を報告した。その後、仙台経済学研究会編『経済学の座標軸』に、同論文を提出し、第11章に収められた。同書は平成28年4月に出版された。 2、平成27年8月の八王子市のSGCIMEの夏季合宿研究会にて、「宇野段階論における主体、制度主義、社会経済的領域構造―社会的必要労働の商品経済による包摂・編成の進化―」の完成稿を報告し、同論文をSGCIME編の『グローバル資本主義と段階論』に提出した。同書は平成28年3月に出版された。 以上の論考を含むビアトリスの青年期の社会診断理論の探求について把握し摘出した、社会学的経済学と社会病理学のうち、社会病理学は進化主義の性格を持ち、政府の介入主義を要請するものである。だが、それらはまだ、熟年期の彼女の議論における社会経済学と福祉経済学と比べると形成途上のものである。彼女の社会病理学の集合的な集団間の制度主義への展開と、福祉経済学の完成への道の研究も、今後の重要課題である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでで、ビアトリスの1886年と1887年の論稿と、彼女のハーバート・スペンサーとの交流の検討から、彼女が青年期に探求した社会問題の「診断」の理論が社会学的経済学と社会病理学であることを確認し、それらが政策論的には政府の介入を要請する介入主義の性格をもち、社会理論としては進化主義の性格をもつことを確認してきた。しかし、それらの理論はまだ、熟年期の彼女の議論における社会経済学としても、福祉経済学としても形成途上のものである。平成27年度は、それらのポイントを「若きビアトリス・ポッターの経済学の形成」として論文を発表した。また、ビアトリスの社会経済研究を位置づける社会経済学の観点についての方法論的探究を行い、「宇野段階論における主体、制度主義、社会経済的領域構造―社会的必要労働の商品経済による包摂・編成の進化―」として、その成果の一部を発表した。 これらの研究結果と、これまでの10年に渡る、結婚前のビアトリス・ポッターの社会経済研究についての論稿をまとめて1冊の著作として出版すべく、<若きビアトリス・ウェッブの社会経済思想>として原稿作成を開始した。 今後の研究課題として、ビアトリスの社会学的経済学と社会病理学とが、イギリスの協同組合ついての彼女の研究と、シドニー・ウェッブとの労働組合についての共同研究を通して、『産業民主制論』で大枠が示され、20世紀に入って体系化された福祉経済学と、熟年期の彼女の集合的な集団間の制度主義の議論である社会経済学とへ、展開してゆく過程を検討しその意義を追及しなければならない。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、ビアトリスの社会学的経済学と社会病理学とが、『産業民主制論』で大枠が示された福祉経済学と熟年期の彼女の集合的な集団間の制度主義の社会経済学とへ展開してゆく過程の一部として、1890年前後の彼女がオウエン主義とどう対応したかを調査する。現地調査として、イギリスのロッチデールやアメリカのニューハーモニーの資料館で、オウエン主義についての資料の調査をする。 ビアトリスの青年期の社会診断理論の探求としての社会学的経済学と社会病理学についての研究結果と、これまでの研究成果を、<若きビアトリス・ウェッブの社会経済思想>としてまとめた著作の原稿を引き続き作成する。その著作には、1、ビアトリスの1886年と1887年の論稿の検討、2、彼女のハーバート・スペンサーとの交流の検討、3、彼女が青年期に探求した社会問題の「診断」の理論が社会学的経済学と社会病理学となったことの検討、4、それらが政策論的には政府の介入を要請するものであることの検討、5、社会理論としては進化主義の性格をもつものであることの検討、これらの論点が含まれる。 こうしたビアトリスの青年期の社会診断理論の探求についての研究で、彼女の社会問題診断理論として社会学的経済学と社会病理学を摘出し把握したが、そうした社会病理学は進化主義の性格を持ち、進化の手段として政府の介入を要請する介入主義のものである。だがそれらは、まだ、熟年期の彼女の議論における社会経済学と、イギリスの協同組合や労働組合についての、シドニーとの共同研究を通して『産業民主制論』で大枠が示され、20世紀に入って体系化された二人の福祉経済学と比べると形成途上のものである。まず、彼女の協同組合と労働組合の研究を検討して、彼女の社会病理学の集合的な集団間の制度主義への展開と、二人による体系的な福祉経済学への道が追及されなければならない。
|
Causes of Carryover |
平成27年度は、研究担当者が、若きビアトリス・ポッターの社会学的経済学と社会病理学についての論文「若きビアトリス・ポッターの経済学の形成」の原稿作成と共著収録のための研究発表に注力し、また、それらとこれまでの研究成果の複数の論文をとりまとめる予定の<若きビアトリス・ウェッブの社会経済思想>の原稿作成に着手した。そのため、彼女の協同組合研究、および、労働組合研究の背景をなすオウエン主義の調査に時間を割くことができなかった。彼女と協同組合主義について調査するため、まず、アメリカ合衆国インディアナ州ニューハーモニーのオウエン主義村の施設を訪問し現地調査することを予定していたが、上記の事情で果たせず、この旅費部分などで次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度の平成28年度において、平成27年度に果たせなかったアメリカ合衆国インディアナ州ニューハーモニーを訪問して調査するために、次年度使用額を使用する。さらに、イングランドのロッチデールの協同組合資料館調査とロンドンスクールオブエコノミクスの図書館調査も実施するが、こちらは平成28年度請求額を使用する。 これらの調査は、若きビアトリスが思想的に依拠し、社会改革の手段として研究を進めたオウエン主義とそれに基づく協同組合運動について、現地で調査するものである。そこでのオウエン主義者について調査した資料をもとに、若きビアトリス・ポッターが、協同組合主義とのかかわりで社会学的経済学と社会病理学を制度主義的に、また、集合主義的にどのように進化させたか考察し、彼女にとっての協同組合運動の意義を検討する予定である。
|