2013 Fiscal Year Research-status Report
途上国における教育格差是正が経済格差是正に及ぼす効果の検証と研究
Project/Area Number |
25380278
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
長島 正治 埼玉大学, 経済学部, 教授 (70228013)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | タイ / 国内労働移動 / 東北地方 / 教育格差 / 所得格差 |
Research Abstract |
平成25年度は、タイ東部の東部臨海工業地域(イースタン・シーボード)、中部アユッタヤの工業団地(Hi-Teck Industrial Estate)および東北地方の中心都市であるコンケーンで操業する日系の企業(自動車部品関連、電気・電子部品関連)において、一般ワーカーに対してアンケート調査を実施するため、調査で使用する質問個票の作成を行った。質問の内容は、年齢、性別、出身地、家族構成、最終学歴、勤務年数、転職歴、今後の転職の希望の有無、また実家への帰省回数や、実家への仕送りの回数や金額などである。 これらの質問項目の中で、本調査において重要な役割を果たす質問項目は、出身地と学歴、転職歴である。タイにおいては、国内の労働移動(出稼ぎ労働)の場合、住民票を移さずに就労するのが一般的であり、したがって東北地方出身の労働者が国内にどのような分布で就労しているのかを住民票等の戸籍データから把握することは難しい。本研究では、一人当たり所得の最も低い東北地方からの出稼ぎ労働者は、東北地方のみならず、全国に分散して就労しているという仮説を立てている。東北地方に比較的近い中部のアユッタヤ地域と、遠距離にある東部臨海工業地域では、東北地方出身の労働者の割合がどの程度異なってくるのかを本研究におけるアンケート調査から明らかにすることができる。また、学歴については、日系企業において法定最低賃金あるいはそれ以上の賃金で正規に雇用されている労働者の学歴を調べることで、正規に雇用されるための学歴水準の現状を把握することができる。また、本調査におけるもう一つの仮説として、労働者は学歴が高くなればなるほど、有利な労働環境を求めて転職をするという仮説を設けており、学歴と転職回数の相関関係の有無についても本研究によって明らかにすることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成25年度には、タイ東部、中部、および東北部において、日系企業で就労するタイ人の一般ワーカーに対して、質問個票を用いたアンケート調査の実施を予定していた。しかしながら、調査の実施を予定していた時期に、反政府デモ隊による首都バンコックの一部占拠などがあり、研究実施に際しての安全を確保するため、バンコック周辺での個票の配布および回収作業や、現地企業でのインタビューなどができなかったことによって、研究の進捗が予定よりも遅れた。また、タイ国内の政治状況が安定しないことから、アンケート調査を予定していたいくつかの日系企業から、質問個票を用いたアンケート調査の延期が申し入れられたため、調査の実施を一年ずらし、平成26年度に実施することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、以下の計画に沿って実施する予定である。平成26年度については、平成25年度に作成し、タイ語に翻訳した質問個票を、タイ東部に位置する東部臨海工業地域、中部アユッタヤ工業地域、そして東北地方中心都市コンケーンにある工業団地で操業するいくつかの日系企業に配布し、その後回収する。また、回収した個票からデータを集計し、データ・ベース化する。作成されたデータ・ベースから、これら3地域で就労するタイ人労働者を出身地ごとに類別する。とりわけ、東北地方出身であり、かつ後期中等学校(わが国の高校)出身の一般ワーカーが母集団にどの程度含まれているのかについて明らかにする。 また、作成されたデータ・ベースから、一般ワーカーの持つ諸特性(出身地、性別、年齢、最終学歴)が地域ごとに異なるのかどうかについて、主成分分析を行う。また、賃金の額以外に労働移動(転職)を促す要因があるのかどうかについても分析を行う予定である。収集されたデータから、「後期中等学校への進学率の上昇が、東北部の家計収入における移転所得の割合を増加させている」という仮説について、計量経済学的に回帰分析を行うことによって、当該仮説を立証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究においては、タイ国内での労働者の移動について、日系企業に勤めるタイ人労働者に対して質問個票を用いたアンケート調査を実施し、労働者の諸特性に関するデータ・ベースを作成し、それらデータに基づき、いくつかの仮説を検証する。 平成25年度にアンケート調査を実施する予定であったが、タイ国内の政治状況が不安定であり、反政府デモ隊による首都バンコックの占拠等の事態が生じたことによって、研究実施についての安全を確保する目的で質問個票を用いたアンケート調査の実施を次年度に延期せざるを得ない事態が生じた。このことによって、海外旅費、滞在費、人件費等に関する研究費の次年度使用額が生じている。 平成25年度の研究実施で作成した質問個票を、平成26年度に実施する調査で、東部臨海工業地域、中部アユッタヤ工業地域、そして東北部コンケーン工業地域の3地域において配布・回収する。回収した質問個票から各データごとに集計し、タイ人の一般ワーカーの諸特性についてのデータ・ベースを作成する。その後、作成されたデータ・ベースを解析し、本研究において理論的に設定したいくつかの仮説を計量経済学的に検証する作業を実施する。 それら一連の分析によって、「都市部と農村部の教育格差の是正が、農村部から都市部への労働移動とそれによって発生する所得の移転を通じて農村部の収入が増えることによって、都市部と農村部の経済格差の是正に貢献する」という本研究における最大の仮説が立証される。
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