2014 Fiscal Year Research-status Report
若年及び中高年無業者の社会的孤立とその対策に関する経済分析
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25380280
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
玄田 有史 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90245366)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 孤立無業 / 孤立の一般化 / 東日本大震災 / 社会的共通資本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ふだんずっと一人でいるか家族とのみ交流を持つ無業者(20~59歳、学卒、未婚)として定義される「孤立無業(Solitary Non-Employed Persons: SNEP)」を実証分析してきた。2014年度には、学術研究を発展させると同時に、2013年度までに蓄積された研究成果を踏まえて、政策的な対応方法を含めた情報発信により、研究成果の社会的還元にも努めてきた。そのために自治体などからの要請に応じて孤立無業に関する講演を行ったほか、マスメディアからの依頼に応じて番組出演などもした。そこでは実証結果のうち、かつては男性、中退、30代が孤立無業化しやすかったのが、現在は女性、進学者、20代でも孤立無業が広がっていることを「孤立の一般化」というかたちで強調した。 併せて2014年度の研究計画にも記したとおり、政策提言につなげるための聞き取り調査を継続して行った。具体的には、ニート、ひきこもり、不登校者への訪問相談である「アウトリーチ」活動に実績を持つ、社会的自立支援活動を目的とするNPOに対する調査を実施した。 加えて今年度には、東日本大震災による被災が孤立無業に与えた影響も新たに実証分析を行ってきた。震災では約220万人が離職もしくは休職を強いられることになったが、被災により避難・転居を強いられた人々ほど、それまで地域で培ってきた「社会的共通資本」を喪失することで、無業状態が継続し、かつ孤立状態に陥っている実態を明らかにした。その実態についても、2014年度の研究計画にも記したとおり、岩手県の政策担当者へのインタビューや調査協力依頼を通じ、孤立無業への対応策を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
孤立無業の分析については、既に2013年度において、投稿論文が日本経済学会が発行する雑誌に採択され、かつ研究書を刊行するなど、当初の計画以上に進展している。そのため2014年度には、新たに東日本大震災と孤立無業との関係などについての考察を進めることも可能となった。その結果、被災地で懸念される「被災者の孤立」問題に対しても、対応策に関する客観的な情報提供をすることが可能となった。 また研究成果は学会内のみでなく、広く社会からの関心も獲得している。講演やメディアへの出演の他、社会的自立支援活動を目的とするNPOとも連携し、その成果は活動に活かされている。 研究目的でも記したとおり、ひきこもり及びそれに類する孤立傾向にある無業者像を計量経済学の手法を用いて描き出した実証研究は、本研究までほぼ皆無の状態にあった。それに対し、孤立無業という概念の普及を通じて、関連した研究や書物も増えていることも、予想を超えた研究成果といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、孤立無業の概念について、国内だけでなく、国際的にみても新しい無業者に関する概念として、海外への発信を強めていく。そのためにも英語による学術研究論文についても検討する。 さらに現在、新たに青少年の雇用促進に関する法律が制定されることが予定されている状況を踏まえ、より望ましい若年無業者を支援するための具体的な方策についても考察を深める。 またILO決議による失業概念の拡張を受けて、日本でも失業統計の再検討が進められていることを踏まえ、それらの統計整備とあわせて、孤立無業を広く考察するための統計のあり方などについても考察する。具体的には、孤立無業の研究に活用してきた総務省統計局による「社会生活基本調査」が2016年に予定されていることから、その調査内容について統計局からの要請に応じて、本研究からの知見を提供していく。 あわせて孤立無業についての実態理解を広めるための社会への情報発信を引き続き進めていく。
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Causes of Carryover |
旅費に一部変更が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度に物品費として活用する。
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Research Products
(5 results)