2014 Fiscal Year Research-status Report
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25380288
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
岩田 真一郎 富山大学, 経済学部, 教授 (10334707)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 住宅 / 資産価格 / 持ち家 / 出生 / プロスペクト理論 / 損失回避行動 / サバイバル分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
住宅資産価格の上昇は、仮に住宅を転売したときの収入の増加や、資金を借り上げた場合の担保評価額の増加を通じて、持ち家所有者を豊かにする。一方、経済学では出生率は所得の増加に伴い上昇すると考えられている。資産の増加は所得の増加と同じような効果を持つため、この2つの考えを合わせると、住宅資産価格の上昇は出生率に対して正の影響を及ぼすと予想される。実際に、2013年、2014年にこの予想に基づいた実証研究が経済学の主要雑誌に相次ぎ発表された。 この予想に従うと、住宅資産価格の下落は上記に対して対称的な下落をもたらすと思われる。しかし、人々の心理を考慮して分析された損失回避行動によれば、人々は住宅資産価格の上昇に比べ、同額の下落に対してより敏感に反応すると考えられている。そこで、本研究ではこの考え方を応用し、住宅資産価格が下落するときに持ち家所有者が出生率を低下させる程度は、上昇する場合に出生率を上昇させる程度に比べて絶対値で見て大きいという仮説を立てた。 この仮説を検証するために、本研究では「慶應義塾家計パネル調査」(サンプル数は約4000)の2004年から2011年の個票データを使用した。この調査から、家計が子を出生したか否か、所有する住宅の資産価格が前年から変化したか否かを知ることができる。検証の結果、住宅資産価格が前年から10パーセント上昇した場合は、次の年の家計の出生確率を2.3パーセントしか上昇させないのに対して、住宅資産価格が前年から10パーセント低下した場合は、次の年の家計の出生確率を23.5パーセントも低下させることが明らかになった。この結果は、上記で述べた仮説と整合的である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの問題点が解消できたため。 昨年度は、出生率の時間への依存の仕方をグループ別に変えずに分析した。そこで、本年度は、世代別、持ち家の購入時期別のグループを作成し、グループ別に時間への依存の仕方を変化させ分析を進めた。すなわち、グループ別のベースラインハザードを適用し、サバイバル分析を実施した。その結果、推定結果は仮説をより支持する内容となった。 また、損失回避行動以外の考え方を用いて推定結果を解釈できるかどうかを検討した。日本には、住宅の売却に伴い譲渡損失が発生した場合に、その損失を一定の間、所得税から控除できる制度が存在する。一方、譲渡所得に対しては税を納める必要がある。したがって、譲渡損失が発生したときの予算の下落は、譲渡所得が発生したときの予算の上昇に比べて、絶対値でみて大きくなる。ここで注意しなければいけないのは、譲渡所得の計算は購入価格と売却価格の差になることである。しかし、本研究では、住宅資産価格の変動を1年前の自己評価額と現在の自己評価額の差として測っている。このことは、本研究では、上記の制度の影響を測れていないことを意味する。したがって、このような説明を用いて推定結果を解釈できないと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究で、住宅資産価格の変動は借家居住の家計の出生率には影響を与えないことが確認されている。しかし、持ち家、借家の居住形態の違いが出生率に与える影響は十分に検証できていない。本年度はこの点に重点を置き、分析する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度中に書き終えた論文を校閲に出す予定であったが、論文の構成を変更したため、この作業が終えられなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
論文を書き終えた後に、校閲に出す予定である。その後査読誌に投稿する。
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