2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25380292
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
竹内 文英 北陸先端科学技術大学院大学, 先端領域基礎教育院, 教授 (00640749)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際的な景気循環 / パススルー / 為替レート |
Research Abstract |
世界的な景気循環の特徴の把握と背景分析については、東アジアと日米欧を含めた広域圏で1990年代末以降、「景気循環の連動性」が顕著に上昇している点を確認した。高い技術を含んだ資本財が東アジア各国と先進諸国間で取引され、生産性を同時に高めていることが主な理由と考えられる。 途上国を含めた世界景気の動向をマネタリーな観点から検討するうで重要な論点のひとつと考えられるパススルー(為替レートの変動が輸入・国内物価に反映される程度)の問題についても研究を始めた。 IFS等でデータが利用可能な世界25か国をとりあげ分析した結果、パススルーは1990年代から2000年代にかけて、国内財と輸入財の間の代替の弾力性の影響を強く受けるようになっている。代替の弾力性が大きくなるほどパススルーの程度も大きくなるという正の関係が確認された。国内外財の代替の弾力性はいわゆるディープパラメータであり、モデル分析などではカリブレーションにより一定の値が置かれるのが一般的であり、分析結果は重要なファクトファインディングといえる。 さらに、この代替の弾力性の変化は、中間財における国内・輸入財の投入比率、最終財である資本財における国内・輸入財の需要比率の影響を受けていることが明らかになった。輸入財の投入・需要比率が高まるほど代替の弾力性は低下し、結果的にパススルーが低下している。輸入財比率は国際的な企業間競争の程度をあらわす指標と考えることも可能だが、代替の弾力性・パススルーと、競争環境の代理変数としてよく用いられる輸入GDP比率の間には有意な関係性は確認できなかった。 従来の理論的な研究では競争の強化、あるいは国内市場における海外財のシェア拡大はパススルーをむしろ上昇させるとされてきた。ただ、このような結論は本稿で焦点を当てた代替の弾力性を固定したうえで導かれている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は、(1)途上国、先進国の様々なデータの収集、チェック(2)計量的な分析に入る前段の予備作業として、できるだけ多くの途上国、先進諸国のデータを使い、途上国でも様々な属性の違いにより、景気循環にどのような特徴があるのかを明らかにする、などの課題を経たうえで、研究の2年目から最終の3年目を目標に、「景気循環では生産などの実質データの動きに焦点があたりがちだが、金融政策などへのインプリケーションを勘案して、物価など名目変数の国際的連動性とその要因について検討を加える」という3番目の研究課題に取り組む予定だった。パススルーの問題は最後の3番目の課題のメインテーマと位置付けており、初年度に予想以上の進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に進展のあったパススルーに関する研究をさらに進めて論文として完成させるほかに、以下の2点について研究する。 第一に、①途上国の景気循環は先進諸国に比べると供給ショックから受ける影響度合いが本当に大きいのか、②確認された供給ショックの中身はどのようなものか、以上の2点について分析を行う。②の供給ショックの中身の分析については、相互に独立な構造ショックが抽出できるstructural FAVAR による分析(Takeuchi,2013)で得られた構造ショックと、実際の統計データから計算した様々な種類の生産性データを比較することで分析を行う。生産性ショックの種類としては全要素生産性や、主要な貿易財のひとつである資本財に体化された投資特殊的技術進歩などが分析の対象となる。 ①の論点については技術水準が相対的に低い発展途上国の方が生産性ショックの影響を受けやすいというのは直感的には受け入れられやすい仮説といえるが、こうした点を実証的に分析した先行研究は見当たらない。Takeuchi(2013)では先進諸国と途上国では景気循環と生産性ショックの関係が異なり、先進諸国では反循環的(countercyclical)、途上国では順循環的(procyclical)である可能性が示唆されたが、一部の国を対象にした分析にとどまっており、サンプル国を拡張することで、仮説が正しいのか否かを検証する。 第二には、途上国の比較的長期的な経済成長の軌跡について、近年注目が集まっている、いわゆる「中所得国の罠」に関連して分析する。従来のようにすべての国を一括して、経済成長に必要な制度・政策を考えるのではなく、様々な国を所得階層別に分けてデータを集積し、他の所得階層と比較しながら中所得国が高所得国に移行するするために必要な条件を特定することを目標とする。こうした方法をとることによって、中所得国の罠の問題について新たな知見を得ることができると期待している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の初年度は今後の研究の準備作業として、発展途上国のデータ収集を幅広く行うことを予定していたが、パススルーの問題など個別具体的な研究が先行する結果となった。そのため、データベースの利用費が当初の予算を下回った。また、研究初年度のため、主に研究の成果が出てきた段階で必要になるセミナー・学会等への参加のための経費(旅費等)を使用しなかった。 研究のデータの蓄積を本格化するため、データベースの利用頻度が増えていく見通し。次年度使用額は主に、そのための経費として使用する。
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[Book] 概説アジア経済2013
Author(s)
牛山隆一・可部繁三郎・山田剛・竹内文英・山澤成康
Total Pages
150(36~47)
Publisher
公益社団法人日本経済研究センター