2013 Fiscal Year Research-status Report
資源輸出国と輸入国の間の政策競争および政策協調に関する理論研究
Project/Area Number |
25380300
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
太田 博史 神戸大学, 国際協力研究科, 教授 (50118006)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片山 誠一 愛知学院大学, 経済学部, 教授 (70047489)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交換(カナダ) / 枯渇資源 / 環境税 / ナッシュ均衡 / シュタッケルベルグ解 |
Research Abstract |
本研究の目的は、その消費活動が温暖化ガスを排出する化石燃料の国際間貿易にたずさわる輸出国と輸入国との間の政策的競争と協調の特性を見極めることにある。輸出側の分析は「石油輸出国機構」に代表されるように原油の輸出価格の決定におけるカルテル的協調と「抜け駆け」の誘惑にともなう競争の要素との両方に注目しなければならない。一方、輸入国側はカルテル的側面をもつ輸出国グループに対抗するためには一致団結して行動することが大事であり、そのための政策協調が重要視されるであろう。そのうえで、輸出国と輸入国の間にはどのような競争あるいは協調が可能か、また協調がある場合とない場合のそれぞれの側の経済厚生はどのように違ってくるかを分析する必要がある。 本年度の研究では、輸出国側、輸入国側それぞれの内部では完全な協調行動が成立し、競争は輸出カルテルと輸入国連合の間にのみ存在する場合を検討した。輸出カルテルが原油の輸出価格を決め、輸入国連合は温暖化の悪影響を少しでも抑えるべく原油の消費に環境税を課すことを考える。原油の消費価格は輸出カルテルが決める価格に環境税を加えたものになる。輸入国の厚生は原油の消費から得られる効用と温暖化ガスの累積による不効用との差の割引現在価値によって測られ、輸出国側の厚生は原油輸出収益の割引現在価値で測ることができる。このような想定のもとで、原油価格と環境税率は時間の経過とともにどのように変化していくであろうか。 ダイナミック・プログラミングおよび数値計算を用いて解を求めたところ、(1)輸出国と輸入国が採用する政策競争にナッシュ均衡が存在し、その解は一意である、(2)両グループを合わせた全体の経済厚生は、ナッシュ均衡下の方がシュタッケルベルグの解の時より高い、(3)輸出国カルテルが先導者になる方が輸入国が先導者になる時より全体の厚生が高い、という結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数の輸出国と複数の輸入国のそれぞれの内輪およびグループ間の競争と協調関係を包括的に分析することが最終目標であるが、本年度はグループ間の競争と協調に特化した研究成果を上げることができた。具体的には、1輸出国と1輸入国の間のナッシュ均衡およびシュタッケルベルグ解を求めることができたことで、それぞれのグループの国の数を増やすという次の段階へ進むことが可能となった。 また、本年度の研究では、1輸出国と1輸入国を擁する分析モデルでも、異なった競争形態間の経済厚生の水準比較に関しては、解析的な解を求めることが難しく、数値計算に頼らざるを得ないことが判明した。しかし、解析的な解は高々3次関数の解になっていることがわかり、経済変数に特有の非負制約の他には時間に対する割引率(利子率)に許容可能な数値を想定すれば簡単な数値計算によって経済学的に意味のある結果を導き出すことができた。 研究計画年度の初年度ではあったが、分析モデルの構築だけに終わらず、一定の解を求めることができ、国際学会での研究報告や海外で編集された最先端研究論文集に研究成果が収録されたことで本研究はおおむね順調に進展しているものと確信する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により開発できた分析モデルを多数国の場合に拡張する方針である。本年度すでに予備的考察として、輸入国側の国の数を2つにした分析を試みた。結果はまだでていない。輸入国は原油の消費による効用と現在時点までの累積消費量の関数としての環境破壊の両方の影響を受けるが、国が違えば効用関数や環境破壊の進展度が異なるので、両国が同じ率の環境税を課さなければならない理由はない。しかしながら、原油価格の決定に輸出カルテルが大きな力を発揮する世界では、輸入国がそれぞれ異なる政策を採用するのではなく、協調して一律の環境税率を定める方が有利になる場合があるのではないかというのが理論的仮説である。環境税率の高さが原油の消費価格に影響をおよぼすので、輸入原油に対する需要量を規定し、輸出カルテルの価格政策に影響をおよぼす過程を分析したい。 さらに、その次の段階では、輸出国側の価格政策が一様ではなく、輸入国の特性に対応して異なる価格を設定する場合の分析を行う必要があろう。輸出国と輸入国が1対1でそれぞれ独占力を持てば、双方独占の分析になり、均衡価格は両国の指値の間のどこかに落ち着くであろうが、特性の異なる輸入国が課税政策で何らかの協調を行った場合にはどうなるかが問題である。本年度に開発したモデルを修正することによってこれらの課題に対応していきたい。
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