2013 Fiscal Year Research-status Report
ルイス転換点後の中国労働市場の構造変化:農民工の就業選択・世代間格差分析
Project/Area Number |
25380350
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
寳劔 久俊 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, 研究員 (90450527)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 真美 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, 研究員 (60450540)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / 中国 / 農民工 / 職務意識 / 労務管理 |
Research Abstract |
中国内陸部での旺盛な公共投資と産業移転による内陸部での就業機会の増大、労働条件への期待度が高い「新世代農民工」と呼ばれる1980年代以降生まれの農民工の出現を受け、中国沿海部では製造業部門を中心に深刻な求人難が続き、単純労働者の賃金水準は高騰するものの、雇用ミスマッチは依然として解消されていない。このような農民工をめぐる労働市場の問題は、従業員の企業への定着と長期的な技能形成に対して深刻な負の影響をもたらし、中国における製造業の高度化を阻害する要因となることが強く懸念されている。 そこで本研究では、全国レベルの農民工調査と中国沿海部に立地する製造業企業の従業員へのアンケート調査に基づき、農民工の就業選択(職種、就業地点、労働環境など)と期待賃金の決定要因を明らかにする。さらに、製造業企業が従業員に対して行う労務管理のあり方が、従業員の職務意識(組織へのコミットメント、職務満足度)とどのように関連しているのか、そしてコミットメントと職務満足度の違いが従業員の離職意向や技術習得への意欲に対してどのような効果をもたらし、それらは従業員の年齢階層間で有意な格差が存在するのか、という点について定量的に分析する。 本年度は次年度に実施予定の従業員アンケート調査の準備期間と位置づけ、全国レベルの農民工調査(CHIP調査)の個票データ利用して、農民工の就業選択行動と離職行動に関する実証モデルの構築とデータ解析に取り組んできた。また、従業員の職務意識と組織へのコミットメントに関する既存研究の整理と関連資料(調査票、集計データなど)の収集を行うとともに、中国の実態に即した製造業従業員の調査設計の枠組みと調査票の具体的な質問項目、調査データを利用した統計的分析手法について、研究分担者・連携研究者、および中国国内の研究協力者と詳細な議論を重ねてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は当初の予定通り、全国レベルの農民工調査(CHIP、2007年)の個票データ利用して、データのクリーニング作業と基本統計量の推計を行うとともに、農民工の就業選択や離職行動に関する定量的分析を実施してきた。その一方で、平成25年度には調査予定地域の実態把握と現地協力者との研究協議のため、研究代表者が中国で現地調査を実施する予定であった。しかしながら、研究代表者は平成25年8月から在外研究(カナダ・トロント大学)を実施することとなり、在外研究の準備と派遣先での研究活動のため、現地調査を実施することができなかった。ただし、研究代表者のカナダ赴任後も研究分担者・連携研究者、そして中国国内の研究協力者とメール、スカイプ等での頻繁に連絡を取ってきた。そのため、翌年度に実施予定のアンケート調査については大きな支障は生じていない。 また、アンケート調査に関する調査課題と具体的な質問項目についても、日本側研究者、および中国側研究協力者と詳細な協議を進めてきた。その結果、アンケート調査については、製造業企業による労務管理のあり方と従業員による組織へのコミットメント(Organizational Commitment)と職務満足度(Job satisfaction)との関連性、そしてコミットメントと職務満足度の違いによる従業員の離職意向や技術習得への意欲への影響について、従業員の世代間格差と関連させながら統計的に解明できるよう、調査票の質問項目を設定する形でほぼ合意に達している。 以上の点から、現在までの達成度は「(2)おおむね順調に進展している」と自己評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、江蘇省(蘇州市を予定)において製造業企業の従業員に対する職務意識に関するアンケート調査を実施する。当初の研究計画では、江蘇省と四川省の2つの地域でアンケート調査を実施予定であったが、近年の急速な人民元高(対日本円)と中国での調査実施コストの上昇のため、2つの地域でアンケート調査を実施することが非常に困難となった。そのため、調査対象地域を江蘇省に限定する形に研究計画を変更している。 江蘇省調査の調査設計としては、特定の工業団地を選択し、企業への事前調査に基づいて、より従業員重視の労務管理(公平な昇給・昇進制度の採用、労働契約法の遵守など)を実施する製造業企業とそれ以外の製造業企業をそれぞれ3社ずつ(計6社程度を予定)抽出する。調査対象企業の選出基準として、1)電子製品・縫製品などの製造業企業、2)従業員数が中規模(300~500人程度)、3)企業の所有制は外資系企業と民営企業の双方を含む、という3つを設定する。 そして、各企業から70~80人程度の従業員(一般ワーカー、中間管理職に限定)をランダムに抽出し(合計500人前後を予定)、アンケート調査を実施する予定である。さらに、アンケート調査を実施する際、研究代表者も調査対象地域に赴き、中国国内の研究協力者とともに調査員のトレーニングや従業員の抽出を行い、調査対象企業の経営者や労務管理担当者へのヒアリングも実施する。 アンケート調査を通じて収集したデータを利用して、入力データのチェックとデータ・クリーニング、基本統計量の推計と推計モデルの特定化といった作業を進めていく方針である。なお、職務意識の分析にあたっては、確証的因子分析(confirmatory factor analysis)に特化した計量パッケージ(Amos, LISRELなど)を利用して、推計作業を実施していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者が在外研究のため、平成25年8月からカナダ(トロント大学、1年間)に赴任することとなり、赴任の準備やトロント大学での研究活動のため、平成25年度に実施予定であった中国での現地調査を行うことができず、そのために次年度使用額が発生した。 平成26年度は、江蘇省において製造業企業の従業員(主として農民工)に対してアンケート調査を実施する。海外委託調査の実施予算(人件費・謝金)として、現段階では200万円前後を想定し、現地調査協力機関との調査委託に関する契約締結を進める。 また、アンケート調査の実施に合わせ、研究代表者、および研究分担者が調査予定地域に赴き、製造業企業の経営者や労務管理担当者、企業の従業員への面談調査を実施することで、関連情報の収集にあたる。さらに中国での現地調査では、調査予定地域に加え、北京市や上海市、江蘇省の大学・研究機関なども訪問し、製造業企業による労務管理の動向や農民工の直面する生活・労働環境、労働関連法の実際の運用状況に関するヒアリングも行う予定である(旅費は合計で100万円)。その他、中国関連の年鑑・統計書・研究書の購入費用として、約10万円の支出を予定している。
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Research Products
(13 results)