2014 Fiscal Year Research-status Report
ルイス転換点後の中国労働市場の構造変化:農民工の就業選択・世代間格差分析
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25380350
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
寳劔 久俊 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, 研究員 (90450527)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 真美 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, 研究員 (60450540)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / 中国 / 農民工 / 職務意識 / 労務管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国内陸部では旺盛な公共投資と産業移転によって地元就業機会が増加する一方で、沿海部では求人難によって単純労働者の賃金水準は高騰するものの、労働条件への期待度の高い「新世代農民工」(30歳未満の出稼ぎ労働者)の出現もあり、雇用のミスマッチは依然として解消されていない。このような雇用のミスマッチは、企業に対する従業員のコミットメントの減退や企業への定着率の低下を引き起こし、延いては長期的な技能形成に対して深刻な負の影響をもたらすことが強く懸念されている。 平成26年度は、従業員の地域社会や企業への定着や、組織へのコミットメントが、従業員の離職行動や技能形成に対してどのような影響をもたらすのかについて、人的資源論や産業社会学の既存研究に基づき分析仮説の構築を行ってきた。その作業仮説とは、(1)企業による従業員定着のための施策は、従業員による職場へのコミットメントに対して有意な正の効果をもたらす、(2)地域コミュニティーへの定着志向が強く、コミットメントの高い従業員は、転職意向が低下する一方で、技能習得や品質管理への意欲に対して有意な正の効果をもたらす、(3)「新世代農民工」と「旧世代農民工」の間の職務意識に関する格差は、企業の労務管理のあり方によって強く影響される、というものである。 これらの作業仮設を検証するため、中国沿海部の製造業企業拠点の一つである江蘇省蘇州市で、6つの製造業企業(外資系企業3社と民営企業3社)の従業員に対して職務意識調査を実施した。本調査は南京農業大学に委託する形で平成26年11月に実施され、標本数は390人(一般ワーカーと中間管理職が調査対象)である。南京農業大学から提出された調査報告書に基づき、データ・クリーニング作業を行うとともに、作業仮説の初歩的検証のために記述統計による検討と統計パッケージを利用した実験的な推計作業に取り組んできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は中国側の研究協力者と連絡・調整を図りながら、製造業企業の従業員に対する職務意識調査に関する準備作業(調査対象企業の選定、検証仮説の特定化、調査票の作成など)を進めてきた。そして、平成26年11月には南京農業大学に調査を委託する形で、6つの製造業企業の従業員に対する職務意識調査を実施した。 当初の予定では、四川省においても同様の調査を実施予定であった。しかし、急速な人民元高(対日本円)と中国国内の調査実施費用の高騰のため、調査対象地域を江蘇省に限定し、より集中的に資源を利用する形に計画を変更した。また、平成26年度には調査対象地域でのヒアリング調査を予定していたが、中国側の研究協力者からの要請で、平成27年度に延期することとなった。 その一方で、日本側と中国側との協議の結果、蘇州市の工業地区において、当初の予定にはなかった50社程度の労務管理担当者へのアンケート調査の実施が可能となり、日中間で調査票の検討・作成を行い、平成26年9月に企業調査を実施した。その結果、企業の特性(所有制、従業員規模と年齢階層、労務管理のあり方など)に応じた製造業企業の選出が行えるなど、選択と集中によるメリットも生まれている。さらに、従業員調査と企業調査の調査データについて、中国側の研究協力者と協議しながら、データ・クリーニング作業と実施と基本統計量と推計、推計モデルの特定化といった作業も並行して行ってきた。 以上の点から、現在までの達成度は「(2)概ね順調に進展している」と自己評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
江蘇省蘇州市の製造業企業で実施した従業員調査と、全国レベルの農民工調査(CHIP調査)を利用して、平成27年度は農民工の職務意識と離職行動に関する実証分析に取り組む。具体的な分析内容は以下の二点である。、第一に2つの調査データに含まれる就業者について、基本属性(年齢、教育水準、性別、就業先企業の産業分類や就業人数など)や職務意識、社会的ネットワークといった指標に基づいてマッチング実験を行い、就業地域や就業形態の違いが農民工の所得水準や生活レベルに与える影響を厳密に検証していく。 第二に、農民工を「旧世代」と「新世代」に分類し、出稼ぎ先の地域社会や就業先企業への定着、あるいは社会的ネットワークの大小が、従業員による企業へのコミットメントや従業員の離職行動、さらに技能習得への積極性に有意な影響をもたらすかについて、多変量分析を実施する。その際、確証的因子分析(confirmatory factional analysis)のための計量パッケージ(Stata Ver. 13, Amos)を利用して、実証分析に取り組む。 また研究課題の実施にあたり、平成27年度には研究代表者および研究分担者は江蘇省蘇州市の調査対象企業において補足調査を実施する予定である。この補足調査を通じて、労務管理に関する定性的な情報収集に努めるとともに、農民工をめぐる当該地域の生活・就業環境や社会的ネットワークについての理解を深めることで、実証分析での作業仮説の修正や推計結果へのより正確な解釈が可能となる。 研究成果については、学会での研究報告を通じて内容改善を図るとともに、ディスカッションペーパーなどの執筆や一般向け月刊誌への投稿を通じて、素速く情報発信を進めて行く予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、(1)中国での従業員調査について、対象地域を2つから1つに限定したことで、委託調査全体の支出額が予定金額よりも若干、抑えられたこと、(2)中国側からの要請で平成26年度に実施予定の中国での現地調査を平成27年度に延期したこと、という2点が挙げられる。なお、現地研究機関への委託調査について、計画当初は「人件費・謝金」として計上していたが、所属機関の経理担当者から、「外注費」として「その他」項目に計上することが適切との指摘を受けたことから、直接経費の支出項目の変更を行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は従業員調査を実施した江蘇省蘇州市での現地調査を計画しており、製造業企業の経営者や労務管理担当者、企業の従業員に対する補足調査を実施予定である。さらに、北京市や南京市などの大学・研究機関を訪問し、農民工の社会経済状況や就業環境に関する最新の動向を聴取するとともに、企業労務管理や農民工に関する最新の調査研究・統計資料を入手する予定である(現地調査の旅費は合計で80万円程度)。 さらに、台湾・北京で開催予定の国際学会やワークショップに参加し、本研究課題と関連するテーマの報告を行うことで、研究内容の改善・修正に努める(学会参加の旅費は合計で30万円程度)。その他、中国の労働・企業経営関連の年鑑・統計書・研究書の購入と、計量パッケージ・コンピュータの購入費用、中国雑誌論文のデータベースの利用費として、約40万円程度の支出を予定している。
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Research Products
(8 results)