2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25380361
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
勇上 和史 神戸大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (90457036)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 労働供給 / 貧困対策 / 政策評価 / 生活保護 / 最低賃金 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、勤労者に対する今後の所得保障政策のあり方を検討するため、最低賃金の改定が労働需給への影響を通じて、最終的な所得分布に及ぼす効果を実証的に検証する。また、近年、最低賃金との整合性が議論されている生活保護について、主に母子家庭という稼働可能な世帯を対象として、両者の時系列的・地域的変動が福祉受給と就業に与える影響を明らかにする。従来、稼働能力がない世帯に対しては生活保護制度が,稼働可能な世帯に対しては最低賃金制度が独立に分析されてきたのに対して、本研究では、潜在的・顕在的な福祉受給者でありかつ稼働可能な世帯である母子家庭に着目することで、勤労者に対する所得保障政策を総合的に評価することを目的とする。 平成27年度は、生活保護と労働供給に関する市区町村別データに基づく前年度の研究結果を国際学会ならびに国内の研究会において報告し、さらなる改善に資するコメントを得るとともに、政府統計の個票データによるアプローチについても新たな分析視点の示唆を得た。また、最低賃金が所得分布に及ぼす効果について、民間調査の個票データに基づく実証分析結果を論文として公表するとともに、その結果を踏まえて、公的統計の個票データに基づく実証分析を大幅に改善した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生活保護による所得保障と労働供給の関係、ならびに、最低賃金の上昇が貧困削減に及ぼす効果について、複数の学会報告ならびに論文を公表し、当初の目的に照らした一定の研究成果をとりまとめることができた。そのうえで、研究成果の公表過程において得たコメントにより、前者については、当初の想定と異なる統計調査のミクロデータを用いることにより、さらに直接的かつ詳細な効果の検証が可能となること、後者についても、より直接的な分析を行う必要があることなどが判明したため、さらに拡張した分析を行い、海外学術誌に投稿することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
生活保護と労働供給、ならびに最低賃金と所得分配に関する申請者の研究成果を踏まえて、平成28年度は、政府統計のミクロデータに基づく拡張された分析結果をとりまとめる。具体的には、総務省『就業構造基本調査』のミクロデータに基づき、前者については、回答者の居住市区町村の情報を用いて、市町村合併による生活保護額の上昇の影響を受けたグループの規模をを計測し、分析に用いるとともに、社会経済的グループ別の労働供給への影響を検証する。これにより、前年度までの市区町村データによる分析を補完する。後者については、都道府県別の最低賃金額上昇の影響を受ける割合が、等価世帯所得の分布に及ぼす影響をより直接的に検証する。これら新たな研究成果を学術雑誌に投稿する。
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Causes of Carryover |
申請研究計画記載の2点テーマ(最低賃金ならびに生活保護による所得保障)のそれぞれについて、最終年度までに一定の成果を提出した。しかしながら、そこに至る過程において得られたコメントや、新たに発見したアプローチに基づき、それぞれについて、改善された研究計画に基づく実証研究を行うことにより、研究内容の質的改善と投稿論文等の追加的な研究の実施が可能であると判断されたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、2点のテーマのそれぞれについて拡張・改善した分析を英文論文にとりまとめる。そのため、次年度使用額は、全て英文校閲費に充てる予定である。
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