2013 Fiscal Year Research-status Report
クロスボーダーM&Aが企業価値に与える影響についての研究
Project/Area Number |
25380388
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武田 史子 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70347285)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | クロスボーダーM&A / イベント・スタディ / 多国籍企業 / 新興市場 |
Research Abstract |
まず、1990年~2009年の期間において、日本企業が中国企業の買収対象となったM&Aの内容と、関連する企業の特性についてのデータベースを作成した。次に、上場企業だけを対象として、M&A公表日における株価反応を、マーケット・モデルおよびFama-French 3ファクター・モデルに基づいて、イベント・スタディ手法を用いて推定した。サンプルは、買収企業が66社、被買収企業が107社であった。次に、推定した株式の累積異常収益率(CAR)について、先行研究で成立した、以下の仮説を検証した。データの収集・計算に関わる作業については、研究室の学生の協力を得た。今回の研究により、以下の実証結果を得た。 (1)中国企業の対日M&Aは、株価を平均すると押し上げる効果があったが、その効果は買収企業よりも被買収企業の方が大きかった。(2)被買収企業の経営効率性が低いほど、M&Aが株価を押し上げる効果が大きかった。(3)救済型M&Aが被買収企業の株価を押し上げる影響は、非救済型M&Aよりも大きかった。(4)資本参加は、他の形態よりも、被買収企業の株価押し上げ効果が大きかった。(5)子会社売却型のM&Aは、それ以外のM&Aより、被買収企業の株価押し上げ効果が大きかった。(6)中国企業の買収企業は、香港企業よりも、M&Aよりも被買収企業の株価押し上げ効果が大きかった。(7)被買収企業の規模が大きいほど、M&Aに対する株価反応は小さかった。(8)被買収企業の収益性が高いほど、M&Aに対する株価反応が大きかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した「研究の目的」は、日本企業が関わるクロスボーダーM&Aに焦点を当て、企業価値への影響を株価を用いて推定し、それがどのような要因によって影響されるのかを分析することとされていた。特に、クロスボーダーM&Aの中でも、これまで比較的研究が少なかった途上国企業による対日M&Aを採り上げ、先進国企業によるM&Aと比較することを目的としていた。その理由は、先進国企業と比較して、途上国企業によるクロスボーダーM&Aは、先進技術と技術ノウハウの取得といったメリットが小さい上に、技術流出などのデメリットも指摘されていることによる。 このような中、途上国の代表として、中国企業による対日M&Aが当該企業の株価に与える影響を測定し、その株価反応が、当該企業の企業特性や、M&Aの形態等によって、影響されることを示したのは、目的に沿っているといえる。さらに、先進国企業のM&Aで成立していた仮説が、中国企業による対日M&Aで、必ずしも成立しないことが示された。中でも、買収企業による被買収企業の経営権の移行度合いが小さいほうが、株価の上昇につながるというのは、技術流出の懸念が指摘される中で、重要な示唆であると考えられる。 なお、今回の研究成果は、国際学会での発表とジャーナル受理を達成している。さらに、平成26年度以降に実施予定であった、米国企業の対日M&Aが株価に与える影響についての分析と、中国企業の対日M&Aとの比較についても、分析を進めていることを報告する。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は分析を2つの方向で拡張する計画である。一つ目は、当初の計画予定にあったように、米国企業による日本企業のM&Aについて、中国企業と同様の分析を行い、当該企業の株価への影響を比較する予定である。もう一つは、対日M&Aが被買収企業のイノベーションに与える影響を、研究開発費や、特許に関連する各種指標を用いて、分析する計画である。当初の計画では、2つ目の拡張は、日本企業による対外M&Aの分析にする予定であったが、これまでの研究成果を踏まえ、海外企業による対日M&Aの分析をより深める方向に変更したいと考えている。具体的には、1つ目の拡張と同じように、2つ目の拡張も、米国企業と中国企業による対日M&Aを比較する形で行う予定である。 特許の価値を測る指標としては、特許数、前方引用数など、従来から複数の指標がよく使われていた。これに対し、今回は、工藤一郎国際特許事務所が提供しているYK値(注)という指標を用いる計画である。このYK値とは、第三者から特許に対して起こされたアクションを点数化したものであり、特許の独占排他性を表すものであり、これが高いほど、特許の価値が大きいとみなすことができる。日本企業を対象とするクロスボーダーM&Aが、被買収企業の技術力を目的とするものがあるならば、このYK値や、研究開発費が、M&A実施前後でどのように変化したか、あるいはM&Aに対する株価反応と関連性があるのかどうかを分析することは、意義ある研究であると考えている。
|
Research Products
(4 results)