2014 Fiscal Year Research-status Report
クロスボーダーM&Aが企業価値に与える影響についての研究
Project/Area Number |
25380388
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武田 史子 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70347285)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | クロスボーダーM&A / イベント・スタディ / 多国籍企業 / 新興市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに作成した1990年-2009年の期間における日本企業が中国企業の買収についてのデータベースに加え、今年度は2006-2011年の期間において、日本企業が米国企業の買収対象となったM&Aの内容と、関連する企業の特性についてのデータベースを作成した。次に、上場企業だけを対象として、M&A公表日における株価反応を、Fama-French 3ファクター・モデルに基づいて、イベント・スタディ手法を用いて推定した。サンプルは、中国企業の被買収企業107社と米国企業の被買収企業404社を用いた。その上で、推定した株式の累積異常収益率(CAR)について、3つの仮説(経営効率仮説・救済仮説・M&A形態仮説)を、米中企業の対日M&Aについて比較検証した。データの収集・計算に関わる作業については、研究室の学生の協力を得た。今回の研究により、以下の実証結果を得た。
(1)M&Aの被買収企業の株価は、米中企業いずれが買収企業の場合でも、有意に上昇した。しかし、上昇程度は、米国企業のM&Aの対象となった企業の方が、中国企業の対象となった場合よりも、有意に大きかった。(2)中国企業によるM&Aでは、所有構造の変化が小さい資本参加が被買収企業の株価を最も大きく押し上げた。これに対し、米国企業によるM&Aでは、所有構造の変化を伴う買収が被買収企業の株価を最も大きく押し上げた。
次に、研究開発費と特許価値指標YK値(工藤一郎国際特許事務所)を用いて、米中企業の対日M&Aが、被買収企業のイノベーションに与える影響を分析した。分析の結果、米中双方において、M&Aが被買収企業の研究開発に与える影響は見られなかった。一方、 両国企業による対日M&Aに対する被買収企業の株価反応は、研究開発費が小さい企業ほど大きくなる傾向が見られた。また米国企業の対日M&Aでは、特許価値の大きい企業ほど株価反応が大きかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前回、今後の研究の推進方策について、以下の2つの方向への拡張を行うとした(1)米国企業による日本企業のM&Aについて、中国企業の同様の分析を行い、当該企業の株価への影響を比較する。(2)対日M&Aが被買収企業のイノベーションに与える影響を、研究開発費や、特許に関連する各種指標を用いて、分析する。前述のように、この2つの論点について、2014年度は分析を行い、結果を得るに至った。
2つの拡張のうち、(2)については、米中企業の対日M&Aが被買収企業の研究開発や特許価値に及ぼす影響について、有意な結果を得られなかった。しかし、米中ともに被買収企業のイノベーションのインプットである研究開発費が小さいほど、対日M&Aによる企業価値上昇効果が期待できるという結果が得られた。一方、米国企業対日M&Aについては、イノベーションのアウトプットとしての特許価値は、大きいほうが株価上昇傾向が大きかった。ただし、いずれも統計的に強い結果ではなかったため、この方面で今後さらに分析を拡張することは考えていない。
これに対し、(1)については、米中企業の対日M&Aが与える被買収企業の株価反応に、統計的に有意な差があることや、両国企業の対日M&Aにおける形態の違いが、株価反応に影響を与えているという結果が示された。1つ目の結果は、先行研究から類推が可能であるが、2つ目の結果は、他では検証されていないものと理解している。このため、今回得られた結果は、複数の国際学会で報告され、現在英語の学術ジャーナルに投稿中になっている。今後もこのような結果の背景について、継続的な研究を行うことを考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
前述の研究結果を踏まえ、2015年度は、以下の方向で研究を拡張する予定である。今年度の焦点は、米中企業の対日M&Aの株価反応が有意に異なる理由がどこにあるのかを、様々な角度から分析することに当てる。特に、被買収企業の経営効率性、財務健全性、コーポレート・ガバナンス構造の違いを中心に、これらの相違が株価反応に違いに与える影響を、定量的に分析することを考えている。経理効率性の指標としては、ROA、PBR等、財務健全性の指標としては、インタレスト・カバレッジ・レシオ、負債比率等を含む予定である。また、ガバナンスについては、対日M&Aが外国人株主比率の上昇と関連性があることから、株主構成の違いに焦点を当てることを考えている。
さらに、コーポレート・ガバナンス分野の研究で実績のある、カナダ・アルバータ大学のVikas Mehrotra教授に協力を仰ぎ、対日M&Aとコーポレート・ガバナンスとの関連性についての分析について、助言を仰ぐことを考えている。このため、2015年4月~6月の間に話し合う機会を持ち、討論する予定である。
データの収集や計算に関する作業については、研究室の学生の協力を頼む予定である。M&Aデータとしてはレコフデータベース、株価データは東洋経済株価CD-ROM、Yahoo! Finance等、企業財務データは東洋経済会社四季報CD-ROM、日経NEEDS Financial Quest等、Fama-French 3ファクターは金融データソリューションズのデータ等を使用する予定である。
|
Research Products
(2 results)