2013 Fiscal Year Research-status Report
ユーロ圏における対外インバランスの拡大と調整メカニズムに関する研究
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25380393
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岩本 武和 京都大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (80223428)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 経常収支 / 資本フロー / ユーロ / 国際投資ポジション / 対外不均衡 |
Research Abstract |
初年度は、ユーロ圏における資本フローを、IMF国際収支マニュアルの居住者原則、およびBIS国際資金取引統計の国籍原則により、グロスの側面から以下のように分析した。 (1)2007年には、グロスでみれば、欧州から米国へは9600億㌦の資本が流入し、米国から欧州へは1兆㌦の資本が流出した。つまりネットでみれば僅か400億㌦の純流出にすぎない。これに対して、アジア太平洋から米国へはグロスで4300億㌦の資本が流入し、米国からアジア太平洋へは310億㌦の資本が流出することによって、ネットでは4000億㌦もの純流入があった。ネットで見る限り、対外インバランスは米国・アジア間が大きいように思えるが、グロスの資本フローで見ると米国・欧州間の方が遥かに巨額であり、その意味でリーマンショックによる世界金融危機と欧州のユーロ危機は連動している。 (2)ユーロ導入後の1999年以降、ユーロ圏の銀行は、域内でのユーロ建て貸し出しを急速に拡大させた。こうしたユーロ圏銀行による域内でのユーロ建てレバレッジの拡大は、米銀による米国内のドル建てレバレッジの増加をはるかに凌駕するものであった。このことが、2002年以降のスペインとアイルランドにおける不動産バブルを助長や、2004年以降に加盟した中東欧への貸し出しの増加の背景にあったのである。 (3)しかも、ユーロ圏の銀行は、ドル建ての資産と負債も増加させていった。2008年における米国外にあるドル建ての銀行資産および負債は、米銀が国内で保有するドル建て資産・負債を凌駕する。このうち、ユーロ圏の銀行が保有するドル建て資産・負債はともに上記の過半に達し、こうしたユーロ圏の銀行のレバレッジの拡大(バランスシートの肥大化)の背景には、ユーロ導入およびバーゼルIIの積極的採用による高レバレッジ経営にあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の内容は、内閣府・経済社会総合研究所・国際共同研究プロジェクト「世界経済の構造転換が東アジア地域に与える影響」のディスカッション・ペーパーであるT.Iwamoto, “Structural Changes of Global Economy Based on Gross Capital Flows and International Investment Positions”, pp.1-33 (http://www.esri.go.jp/jp/prj/int_prj/2013/prj2013_01_04e.pdf)として公表されている。 同稿は、過去20 年間における先進国および新興国のグロスの資本フロー、および国際投資ポジションという側面から、①先進国間では、双方向での国際資産取引が活発となり、グロスの資本フローが流出・流入とも大きく拡大した結果、ストックとしての国際投資ポジションも、グロスの対外資産・負債が両建てで膨張したこと、②これに対し、主として東アジアの新興国では、1997 年のアジア危機を契機として、経常収支黒字が定着し、それが外貨準備の著しい増加という形で、一方向の資本フローが続いた結果、ストックでみてもネットの国際投資ポジションが拡大したことという対比を視点から、世界経済の構造変化を包括的に述べた大部な論文であるが、ユーロ域内の不均衡問題を上記の内容として含むものである。 したがって、「初年度は、まず準備作業として、ユーロ導入後から金融危機を経た現在までのユーロ圏の対外インバランスに関するデータを収集し分析する。その際、①IMF国際収支マニュアル第6版(BPM6)の分析に基づき、②ユーロ圏独自の問題点であるECBにおけるTERGET 2の債権債務残高のデータの分析も行う」という申請時の計画のうち、②の作業が追加した上で、上記論文の当該箇所と接合した上で、学術論文として投稿する準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、まずECBにおけるTERGET 2の債権債務残高のデータの分析を行う。これは、ユーロ圏内部で「経常収支不均衡問題」というよりも、「決済不均衡問題」であるが、中央銀行間の決済システムにおける債権・債務関係の不均衡拡大が、周辺国の経常収支赤字をファイナンスしているという意味で、公的資金援助と同様の役割を担っているという意味で重要である(岩田一政「銀行危機、政府債務危機と決済不均衡問題」)。 また、2013年11月、欧州委員会は第3次アラート・メカニズム・レポート(AMR:Alert Mechanism Report)を公表した。AMRはEUのマクロ経済不均衡是正手続き(MIP:Macroeconomic Imbalance Procedure)の1年サイクルの出発点に当たるものである。MIPは、EMUの円滑な機能を阻害する加盟国のマクロ経済不均衡を早期に把握し、それに対処することを目的としている。対外不均衡および競争力と、対内不均衡に分類された計11のMIPスコアボードをフォローすることも、本研究では重要な貢献となる。 さらに、ユーロ圏の民間銀行部門におけるバランスシート調整を分析する。これは、上記のような初年次の研究実績でも触れたように、EUと米国間のグロスの資本フロー(ユーロ圏の金融機関は、対アメリカとの関係では「短期借り・長期貸し」のポジション)が、実際はシャドーバンキングを経由して行われ、シャドーバンキングによる新たな流動性供給様式が、グローバルな流動性(global liquidity)を形成しているという点で、国際金融規制でも大きな焦点となっている。その意味で、本研究は単にユーロ域内の不均衡問題に止まらず、global liquidityの管理という側面にまで踏み込む予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年8月27日-31日にイタリアで開催されたEuropean Regional Science Association (ERSA)の第53回年次大会に参加する予定であったが、本務校の業務と日程が重なっために出席できず、当初予定していた旅費(海外)の支出ができなかった。 2014年8月26日-29日にロシアで開催予定のEuropean Regional Science Association (ERSA)の第53回年次大会に参加する予定である。
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Research Products
(7 results)