2014 Fiscal Year Research-status Report
投機的バブルとバブル崩壊のモデルの構築とその実証的検証
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25380404
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
海蔵寺 大成 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (10265960)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 金融バブル / 暴落 / ノイズ・トレーダー / イジング・モデル / 相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、統計力学の視点から株式市場および外国為替市場におけるバブルとバブルの崩壊をモデル化することである。平成26年度は、前年度に研究した株式市場における投機的バブルと暴落のモデルを応用して、外国為替市場における通貨危機のモデルを構築した。カバー付き金利裁定を使ってリスクをヘッジする裁定取引者とキャリー・トレードを行うキャリー・トレーダーの間の通貨取引をモデル化し、キャリー・トレードを通じた通貨バブルとキャリー・トレードの巻き戻りによる通貨暴落のメカニズムを、イジング・モデルを使って説明した。 また、株式取引のノイズ・トレーダー・モデル(および、通貨取引のキャリー・トレード・モデル)の統計力学的意味付けに関する研究を行った。イジング・モデルのエントロピー最大化問題とノイズ・トレーダー・モデルにおける確率的効用最大化モデルは数学的に同一の問題を解いていることは知られていたが、両者の意味的な対応関係は明らかでなかった。本年度は、エントロピー最大化モデルにおけるエントロピー、エネルギー、温度といった統計物理学の基本的概念の意味を投資家行動の観点から考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、投資家(ノイズ・トレーダー)の行動原理を統計物理学の基本モデルであるイジング・モデルを使って明らかにすることである。イジング・モデルは多数のスピンの作り出すマクロ現象(相転移など)を理論的に説明できる点で優れたモデルである。しかし、イジング・モデルはエントロピー最大化原理を使って構築されており、ノイズ・トレーダーをスピンになぞらえたときに、エントロピー、エネルギー、温度など、統計物理学で使われる基本概念が、投資家行動の観点から何を意味するのかは明らかにしなければならない。これはノイズ・トレーダーの行動原理を発展させるとき、非常に重要であると考えられる。本年度に行った研究の結果、統計力学で使われる諸概念の投資行動における意味を明らかにすることができた。たとえば、温度という概念は、スピン(原子)の本源的な揺らぎを現す概念だが、ノイズ・トレーダーの投資決定では、ノイズ・トレーダーの持つ心理的揺らぎ分布(通常、ガンベル分布を仮定する)の分散に対応することがわかった。これらの概念の投資行動との対応付けが可能になったことで、本年度の目標であった理論的モデルの完成はほぼ達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究目標は、前年度に構築した、株式市場のノイズ・トレーダー・モデル、および、外国為替市場のキャリー・トレード・モデルを論文として完成させ、国際会議での研究発表、学術雑誌、書籍などでの出版に結び付けたいと考えている。 また、開発したモデルを応用してバブルの崩壊や通貨危機を予測する統計モデルの開発を行う予定である。さらなるモデルの発展として、ノイズ・トレーダーが相互作用のパターンをノイズ・トレーダーの心理的ネットワークの中に記憶する、いわゆる、連想記憶モデルを構築することを目指したいと考えている。
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Causes of Carryover |
論文校閲費を計上していたが、投稿論文は、共同研究者が校正を行ったため、校正の必要がなくなったこと、執筆中の原稿の完成が次年度にずれ込んだことにより、論文校閲費を使用できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度予算とあわせ、海外出張旅費、学会参加費、論文校閲費に充てるのに加え、海外出張での報告用にノートパソコンをもう一台購入し研究の便に備える。
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