2015 Fiscal Year Research-status Report
正規雇用から非正規雇用への代替は、企業財務行動にどのような影響を与えているか
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25380411
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Research Institution | International University of Japan |
Principal Investigator |
千野 厚 国際大学, その他の研究科, 講師 (30647988)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 金融論 / 企業金融 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国内外で特に近年顕著になっている、労働市場における非正規雇用の増加が、企業価値にいかなる変化を及ぼしているかを、実証的に解明する。前年度までは、理論分析からの仮説導出および米国のデータを用いた予備的な実証分析を行ったが、米国のデータを用いたパネル分析では、労働者の雇用形態と企業財務間の内生性の問題を解決できないことにより、推定結果の信頼性が得られず、因果性に関する解釈も困難であった。この重要な内生性の問題を解決するために、今年度では、前年度に今後の研究の推進方策でも述べた通り、日本において2000年代前半に行われた労働者派遣法の改正が企業価値、特に株主資本コストを通じて企業価値に与えた影響を分析した。より具体的には、日本の労働者派遣法改正を労働者の雇用形態に対する外生ショック(Quasi-Natural Experiment)として捉えて、急激に増加した製造業における派遣雇用が、株主資本コストに与えた因果的影響を、DID(Difference-in-Difference)推定法を用いて分析を行った。分析結果として、製造業の株主資本コストは、非製造業のそれと比較して、製造工程における派遣業務の解禁が議論され始めた2002年前後に有意に低下したことが示された。この結果は、派遣労働者の雇用により人件費の変動費比率が上昇し、企業の営業レバレッジおよび営業リスクが低下することを株式市場が織り込み、株主資本コストが低下したという解釈と整合的である。実際に、労働者派遣法の改正が施行された後、製造業企業において人件費の売上高に対する感応度が上昇したことが確認された。本研究の結果は、労働市場の規制緩和が、企業価値に対しては正の影響をもたらした可能性を示している。以上が、平成27年度の本研究課題に関する研究実績である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時における研究計画では、まず1)理論モデルから実証的な含意を導出し、2)米国および日本のデータを用いて仮説の検定を行う予定であった。現段階では、日本のデータを用いた実証分析も一通り終えており、論文の初版は完成している。論文のタイトルは「雇用の流動性と企業の株主資本コスト:労働者派遣法改正が与えた影響」に決定した。論文の学会発表も確定しており、平成28年5月21日および22日に横浜国立大学で行われる第24回日本ファイナンス学会にて発表を予定している。現段階では、研究全体の約70%から80%を達成した段階と考えている。特に、今年度に科研費を用いて日経NEEDS財務・株価データベースの使用が直接可能になったことにより、作業効率が大幅に上昇した。但し、未だ国内外の学術誌への投稿をするには至っていない。本課題に関しては、既に1年間の補助期間延長が決定しており、最終年度となる平成28年度内に、投稿作業を行う予定である。なお、この論文の基礎となるChino (2016) は、平成28年4月にJournal of Corporate Finance誌から条件付き採択(conditional acceptance)の通知を受けた。
関連文献: Chino (2016): Do labor unions affect firm payout policy?: Operating leverage and rent extraction effects. Conditionally accepted, Journal of Corporate Finance.
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Strategy for Future Research Activity |
補助期間の最終年度となる平成28年度は、日本において2000年代前半に行われた労働者派遣法改正を用いて得られた実証結果に関する、頑健性の検証を行っていく。特にDID推定法を用いている都合上、以下の2つの可能性、1) 推定結果が労働者派遣法改正以外の他のイベントの影響を反映している可能性、および2) 推定結果が製造業と非製造業企業間の観察不可能な差異を反映している可能性、を注意深く検証し、排除していく作業が必要となる。これらの追加的な分析を、約半年間ほどかけて今年度に行っていく。また、今年度内に現在の日本語版の論文を、国内の学術誌へ投稿することも予定している。最終的には、更なる分析を追加した論文を英語版で作成することを予定しており、最終年度内に国際学会発表および国際的なファイナンス系学術誌への投稿も同時に目指していきたい。
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Causes of Carryover |
当初は3年間で終える予定の研究プロジェクトであったが、最初の2年間に本研究プロジェクトの基礎となるChino (2016)の投稿、改訂作業に多大な時間を費やしてしまったため、当初の計画よりも進捗が遅れてしまい、未使用額が生じた。本課題に関しては、既に1年間の補助期間延長が決定しており、最終年度となる平成28年度内に、研究費の未使用額を使用させて頂く予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度も、研究費の未使用額の範囲内で、引き続き日経NEEDSデータベースを継続契約させて頂く予定である。
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Research Products
(1 results)