2014 Fiscal Year Research-status Report
欧州中央銀行による非標準的金融政策の波及経路とその効果
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25380416
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
高屋 定美 関西大学, 商学部, 教授 (60236362)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 欧州債務危機 / 量的緩和政策 / CDSプレミアム / 伝染効果 / 欧州危機 / 時系列分析 / 欧州中央銀行 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究課題である「欧州中央銀行(ECB)の非標準的政策」のいままでの実施状況を詳細に調べ、どのような手段で金融緩和を行ってきたのかを検討した。また、金融緩和を行わざるをえなかった状況を作り出した、欧州債務危機に関しての研究も深めることに専念した。前者に関しては、本研究のパイロット的な研究として、ECBの非標準的金融政策の実体経済への効果を検討した。具体的には非制約VARモデルを用いた計量分析を行っている。これは、「VARモデルによる欧州中央銀行による非標準的政策の実証研究」(商学論集第59巻第4号)として発表した。 また、後者に関しては欧州でのCDSプレミアムの伝播がどのように起きていったのかを、グレンジャー因果性テストを用いて検証している。その結果、CDSプレミアムの伝染が検証された。これは「欧州債務危機とCDS市場での伝染効果」(関西大学商学論集第59巻 第2号)として公表した。さらに、政府債務危機自体が欧州内で伝染したのではないかという仮説をたて、伝染指標を構築して実証を行った。その結果、政府債務危機も伝染したという仮説が支持された。これは「欧州債務危機は伝染したのか?」(関西大学商学論集 第59巻 第1号)として公表した。 さらに、CDSプレミアムが伝播のみに依存することなく、他のどのような要因で動いたのかも欧州危機のリスク伝播を検討する上では重要と考え、実証している。これは「なにが欧州債務国のCDSプレミアムを動かすのか?─欧州債務危機下のソブリンCDSプレミアム変動要因の実証分析─」(関西大学商学論集第58巻 第4号)として公刊している。 これらの研究は“Financial Markets and the European Crisis―Does Sovereign CDS Markets aggravated the Crisis? ―”(日本経済政策学会第71回全国大会招待講演) として学会発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度までに本研究が目的とする欧州中央銀行(ECB)の非標準的政策の実体経済への波及経路の実証分析を行うことができた。非標準的政策は株価など金融変数にはプラスに影響するが、GDPなど実体変数については有意にプラスの結果を得られていない。ただ、金融市場の安定についてはプラスの効果を与えていることも有意な結果を得られている。この結果より、ECBの非標準的政策の効果は金融市場の安定には影響をあたえるものの、実体経済には有意にはプラスの影響を与えるとまではいえない。このような研究結果がすでに得られており、ある程度のECBの金融政策に対する知見は得られたものといえる。 また、欧州債務危機のリスクの波及についてもほぼ検証が終わっている。CDSプレミアムを利用したリスクの伝播が欧州内では存在し、政府債務危機に関しても欧州内では伝染していることが確認された。このような欧州債務危機の状況が確認できたことは、本研究をより進めるものと考える。以上より、本研究は概ね順調に進展しているものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、欧州中央銀行の非標準的政策の効果を検証するための、実証モデルの改善を試み、今までえられた結果と異なる結果が得られるのかどうかを試みる。とくに、2015年3月から始めた量的緩和政策の効果も検証する予定である。それにより、より頑健な結果を得ることに注力する。今年度では欧州中央銀行の行う非標準的政策が実施された前提である欧州危機の影響を検証した。特にユーロ圏内でのCDSプレミアムや債務危機の伝染が確認された。その危機の波及という状態を、どのようにECBが金融政策によって沈静化させることが可能なのかを、より詳細に検証する予定である。 さらに、欧州経済は景気後退を経験し、デフレのリスクも発生している。ただし、現時点での研究結果は非標準的政策実体経済への働きかけが難しいことを示している。そこで、再度、当該政策の実体経済への影響を検証し、その上でどのような政策が実体経済に対してプラスの効果があるのかを検討する予定である。 また、欧州中央銀行の金融政策の結果が、他の中央銀行でも同様に見られるのかどうか、たとえば米国連邦準備や日本銀行の量的緩和政策でも同様の結果が得られるのかどうか、実証を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は主にCDSプレミアムのデータを利用した実証分析を行うという研究を中心に進めており、学会発表や海外での学会での研究者交流を十分には行えなかった。そのため、次年度の使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、国際学会への積極的な参加・発表と、その場での研究者交流をすすめ、今までの研究成果のブラッシュアップをはかりつつ、最終年度としての研究のまとめを行う予定である。現時点では、7月にラトビアで行われる国際学会(International Conference of Economics and Finance)に参加する予定である。
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