2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25380430
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田北 廣道 九州大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (50117149)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境史 / 工業化 / 環境汚染 / 住民運動 / 化学工業 / 寡占的大企業 / 営業監督官 / 環境政策 |
Research Abstract |
2013年夏にデュッセルドルフのノルトライン・ヴェストファーレン州立文書館で認可闘争関係の裁判史料と、営業監督官の「年次報告書」を中心にして史料調査・収集を行った。そのうちディッケ化学会社とイエガー染料会社の1890年代の認可闘争関係の史料と、専門家の資格で認可審査に参加した営業監督官の「年次報告書」を基礎にして研究課題に関するケーススタディを行った。その主要な成果は、次の通りである。 1.営業監督官制度は、1891年査察管区の細分化と役人の大幅増員により大きく整備され、各査察区から提出される年次報告に基づき「年次報告書」が作成されるようになり、営業監督官の手もとに工場経営に関する情報が集約される体制が整った。 2.営業監督官は、通説の主張とは違って「企業家寄りの専門家」として活動したのではなく、「職務規則」の制約、特に「企業家・労働者の仲介的・助言的職務への専念義務」という制約のなかで、住民・労働者の健康・財産保護のために最大限努力していた。その限りで、上級鉱山局に属する鉱山監督官と対照的に、その「中立的」性格を強調したF.ウェケッタ-の2003年の所説は正しい。 3.1891年バルメン警察署長から国王政府宛の書簡、および1891年「年次報告書」から読み取れるように、厳格に過ぎる認可条件の設定は、かえって企業の野放図な経営に拍車をかけることを熟知していて、技術的・経済的に実現可能な条件設定を心がけていたが、それは上記の「職務規則」の制約下に採用された妥協の産物だった(仮説の設定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査・収集した史料の整理は、おおよそ完成しており、1890年代の2つの事例研究から通説に反省を促すような仮説を提示できた。すなわち、営業監督官の認可闘争における役割を「企業家寄りの専門家」「科学技術主義の旗振り人」とではなく、職務規則に縛られその時々の技術水準を前提にしながらも、住民・労働者保護の実を挙げるために中立的立場から活動していたと。1890年代の史料が充実したダール染料会社の事例にもとづき、その当否を検証するための出発点を明らかにできた。
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Strategy for Future Research Activity |
1889-99年ダール染料会社をめぐって伝来する100点を超える認可闘争関係の史料と「営業監督官の年次報告書」(1889-1905)に基づき、認可審査における科学技術主義の勝利と営業監督官の果たした役割の検討を進める。 1.ダール会社に伝来する100点を超える史料を概観して1890年代の特徴の析出をおこなう。都市当局は、人口倍増と無計画な都市化のために極端に悪化した公衆衛生状況を改善するために化学会社の認可申請に手厳しく抵抗するようになり、寡占的大企業バイエル会社のレバークーゼン移転開始に象徴されるように、迷惑の市外転嫁をも生み出しつつルール工業地域全体への汚染拡大と新たな法制的ルール(「その場では甘受すべき汚染水準」原則など)の確定に向かうことになる。 2.1895-96年インドリン・ネグロシンに関する無認可営業を発端とした事後的な認可申請をめぐる審査にあって営業監督官は大きな役割を果たした。既得認可に基づく生産と居直りを見せる企業家に対して、厳しい姿勢で臨む営業監督官の報告書・鑑定書が伝来しており、その分析を通じて上記の仮説の検証を行う。
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