2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25380430
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田北 廣道 九州大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (50117149)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 環境史 / 工業化 / 環境汚染 / 住民運動 / 化学工業 / 寡占的大企業 / 営業監督官 / 環境政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、2103年に収集したダール会社をめぐる史料(1889-1899年)の本格的な分析を通じて、認可審査において営業監督官が果たす役割に関して昨年提示した仮説の検証を進めると同時に、これまで取り組んできた認可闘争に関する研究成果に基づき、現代の環境危機にとって「長期の19世紀」のもつ意味合いを明らかにする作業をおこなった。その主要な論点は、次の通りである。 1)事例研究 1.ダール会社に伝来する史料(104点)を概観する限り、営業監督官の活動は1895年以降の後半期に集中しており、しかも認可違反には厳しい姿勢で取り組んでおり、「企業家寄りの専門家」との通説の主張は受け入れられないこと。 2.営業監督官の中立的な姿勢は、都市エルバーフェルトにおける2度の認可拒否後に、近隣の小都市ハーンに立地を代えて行われた認可申請と営業監督官の鑑定書から鮮明に読み取れる。もともと、優秀な装置であれ製造工程の異常は不可避との鑑定は、国王政府・商務省の認可拒否決定の拠り所となっていた。しかし、ハーン闘争では、初めから認可発給を前提に条件提案を求められたため、無理を承知で技術的条件を設定したからである。 2)「長期の19世紀」の環境史上の意味 最近、「1950年代症候群」「アントロポセン」に代表されるように、今日の環境危機の原因として第二次世界大戦以降の消費主義の普及を重要視する立場が前景に出てきた。しかし、「長期の19世紀」には住民参加型の環境政策の後退(環境闘争の鎮静化と認可審査の集権化)と判断基準として科学技術主義の台頭とが確認できることから、1950年以降に匹敵する大きな転換点をなすことを主張した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.ドイツで収集した史料のうち認可闘争関係の史料については整理・概観は完了しており、1890年代ダール会社をめぐる認可闘争(審査)をめぐる事例研究に進んでいる。 2.それと同時に収集した営業監督官(テオバルト博士)の『年次報告書』(1889-1905)は、本年度国内で調査・収集した「ドイツ化学工業利益擁護連盟」の機関誌『化学工業』掲載の営業監督官関係の史料(『年次報告書』のレヴュー論文や連盟総会・役員会議事録)ともども検討の最中である。地域差こそあれ、化学連盟は営業監督官を「味方」とではなく、『営業条例』『執行規則』に忠実な官僚とみなしていたとの印象を得ている。 3.したがって、営業監督官を「企業家寄りの専門家」あるいは「科学技術主義の旗振り人」と捉えてきた所説には修正が必要で、おおよそ昨年提示した仮説が検証できるとの展望を得ている・
|
Strategy for Future Research Activity |
1889-1899年ダール会社の認可闘争関係の史料(特に、営業監督官関係の28点)、営業監督官の『年次報告書』、および「化学連盟」の機関誌『化学工業』に掲載された営業監督官に対する評価を含む議事録・論考、の3種類の史料の分析を進める。 1.それを通じて、認可審査に於ける営業監督官の役割を、『職務規則』に縛られた中で労働者・住民保護のため可能な限り実践可能な条件を設定すること、換言すれば、技術的到達水準の限界こそあれ、法規制との妥協の産物と理解する、筆者の仮説の検証を進める。 2.これまでの認可闘争(審査)に関する研究成果に1890年代の成果を加えて、環境史における「長期の19世紀」の意味を鮮明にする形で成果のとりまとめを行う。
|