2014 Fiscal Year Research-status Report
18世紀カタルーニャ綿業にとっての捺染亜麻布と植民地産綿花
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25380436
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
奥野 良知 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (20347389)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カタルーニャ / 綿工業 / 綿業 / 工業化 / 産業革命 / 更紗 / 亜麻 / 捺染 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26(2014)年度の研究は、主に3つの点に大別される。 1)一つは、9月に行ったバルセローナのカタルーニャ図書館で行なった史料調査。バルセローナの更紗製造業の企業者団体であるバルセローナ紡績会社の史料や18~19世紀の世紀転換期に当地で最大の更紗製造企業だったゴニマ社の史料を閲覧し、マルタ綿糸と植民地産綿花の質の違いについての言及を探した。だが、やはり、植民地産綿花の質が優れていることを示す文書には遭遇するものの、繊維の長短にまで言及している文書には出会えなかった。他方で、1798ゴニマの年の書簡には「レヴァント綿花は機械紡績に使うには硬い」との記述があった。1797年に始まる対英戦争による危機に対応するためにカタルーニャ綿業は紡績の近代的工業化(機械化および工場制工業化)を開始するのだが、それゆえ、この記述は非常に重要である。 2)二つ目は、2014年12月に経済地理学会中部支部で行った報告。そこにおいて、18世紀後半の代表的更紗製造企業の一つであるカスタニェー社では、捺染亜麻布を1780年代半ばに国内でも大量に、しかも更紗(捺染綿布)よりも多く販売していたが、80年代末には更紗の生産と国内での販売が捺染亜麻布それを上回るようになっていくことを示した。これは、捺染亜麻布とは何だったのかということを解明する試みの一環である。 3)三点目は、1797年から始まり、1808-14年の対ナポレオン戦争を頂点に1830年代まで続く、いわゆる「旧体制の危機の時代」をカタルーニャ綿業の企業家たちは、綿業の近代的工業化を進めることで乗り切っていったことについての研究。これは、2015年8月の国際経済史学会で報告する内容で、この危機の時代に、進化・発展した紡績の機械化および工場制工業化と綿花の供給先の大きな変化がどのような関係にあったのかという点は、本科研研究全体においても重要な問題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
繊維の長短について記した史料に出会うことはできていないものの、植民地産綿花の質の高さを記す文書を複数見出すことはできた。また、捺染亜麻布の輸出が企業者団体であるバルセローナ紡績会社の意向を受けて、紡績会社が捺染亜麻布を買い付けて行なわれていた場合もあったことを明らかにすることができた。 他方、捺染亜麻布は、植民地のみならず、国内でも無視できぬ量が販売されていたことから、ヨーロッパにとっての在来織物である亜麻布に捺染を施した捺染亜麻織物は、スペイン領アメリカ植民地だけでなく、スペイン国内においても、多くの人々に好まれる物産であったことを明らかにすることができた。 また、長繊維であるアメリカ綿は、とりわけ手動紡績(紡車、ジェニー紡績機、バルガダーナ〔ジェニーの改良版〕)の段階での紡糸の質を大いに高めたと推測されるのであるが、いわゆる「旧体制の危機の時代」に進展する紡績の機械化(アークライト、ミュール、スロッスルの導入と普及)において、機械化の進展と綿花産地の変化はどのような関係にあったのかという新たな問題点に進むこともできた。 以上のことから、おおむね順調に進展している、といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は最後の年度であるので、以下の諸点に留意しながら進めていきたい。 1)ヨーロッパ規模での捺染亜麻布についての情報収集と整理。2)バルセローナ紡績会社による捺染亜麻布輸出と綿花輸入についての考察を整理する。3)まだ表にできていないカスタニェー社の販売台帳の1795年分以降を表にすることで、カタルーニャ綿業にとって極めて重要な画期の一つである1797年の前後で、同社の捺染亜麻布および更紗の生産と販売がどのように推移しているのかを探り、なおかつ整理する。4)3)と関係してカスタニェー社は、1801年頃に紡績工場をバルセローナ郊外に設置するが、この点について整理する。5)ゴニマ社は、バルセローナ紡績会社の農村での紡績事業を引き継ぐ形で、農村家内工業を用いて綿紡績に乗り出すが、1797年頃には、畜力を用いた紡績工場をバルセローナに設置する。この点について、整理する。6)「旧体制の危機の時代」に進展する紡績の機械化(アークライト、ミュール、スロッスルの導入と普及)において、機械化の進展と綿花産地の変化はどのような関係にあったのかという点について、市場や品質の点にも考慮しながら整理する。
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Causes of Carryover |
予定していたデジタル複写依頼(2014年度分)をまだ行っていないため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
デジタル複写の費用として使用する。
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Research Products
(4 results)