2013 Fiscal Year Research-status Report
都市ルネサンス期イングランドの小売空間に関する研究―比較史的視点から―
Project/Area Number |
25380444
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
小西 恵美 専修大学, 経済学部, 教授 (90338583)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 18世紀の都市化 / 都市ルネサンス / 小売店舗 / 比較研究 |
Research Abstract |
18世紀のイギリス地方都市の都市化は、工業化に基づく都市化とは異なり、商業の発展を背景に新しい消費文化や社交の中心地として進展することを介して進んだ。都市ルネサンスとも呼ばれる18世紀イギリスの都市の活力や創造力が、どのような条件や状況のもとで発揮されるかを、小売店舗の種類や形態、分布などに焦点を当てながら分析する。この時代、新しい小売形態である常設店舗が大幅に増加したが、その中でもとくに目をひくものは消費文化の浸透を背景に出現した、最新流行の商品や輸入物などを扱う小売店舗であった。 小売店舗全体から見るとそれらの店舗数は決して多くはなかったが、いずれの都市においてもこうした店舗は地理的に集中して立地し、都市の顔として人々を惹きつけた。本研究では、いくつかの性格の異なる地方都市の主要な通りにあった小売店舗やそれらが作り出す「小売空間」を比較分析し、この時期の都市にみられる共通の特徴とともに、地域性や独自性の検出を試み、それを通じて、地方都市の発展の多様な道筋を明らかにする。 H25年度は、まず、既に基本的データ(商工人名録とセンサス)がそろっているキングス・リンのデータベースに、補完資料から得られる情報を追加し、今後複数の地方都市の比較を行う際に比較をしやすくした。都市史書と新聞(電子版)を主に利用したが、とくに後者(Bury and Norwich Post, 1801-1840) は利用価値が高く、商品や店舗の広告だけでなく、破産や新しい店舗の開店、ロンドンとのつながりなど、様々な情報を追加できた。次に、(キングス・リン以外の)分析対象とする都市を都市のタイプ別に選定し、その一部の都市に関して、商工人名録とセンサスから必要なデータの入力を行った。また、1月には渡欧し、共同研究者のワークショップ報告を聞くと同時に本研究に関する意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究は計画に沿って継続的に行い、着実に進んでいる。比較研究をする上での基礎となるキングス・リンのデータベースがより充実したものになった点は大きな成果である。電子化されている新聞は限定されるが、それでも検索の速さと正確さというメリットは大きい。本研究で主資料とする商工人名録とセンサスを補完できる資料を見つけられ、計画になかった成果があげられた。しかし、1年で52週分の新聞が発行されており、それを40年間通読するには、予想以上の時間がとられてしまった。 一方、新しい都市に関するデータベース作りの進捗状況は、計画どおりのペースで進んでいるとは言えない。遅れている理由は以下のとおりである。(1) 分析対象とする都市を選定するために候補をあげたが、それらの都市が信用に足る、かつ分析に必要な情報が記載されている商工人名録をもっていないことも多く、都市の選定が難航した。(2) 商工人名録上で、各都市においてファッショナブルな小売店舗が集中する主要な通りを特定することが、思ったほど容易ではなかった。当初の予定では時間の都合上、ハイ・ストリートや市場広場などいくつかの主要な通りに限定してセンサスの情報を入力するつもりであったが、その数が予想以上に多くなる可能性がでてきた。また、各都市の当時のストリート・マップをまだ入手しておらず、小売店舗の分布の様子を再現しにくい。(3) 試しに学生アルバイトに入力をやらせてみたが、作業効率、正確性ともにかんばしくなく、入力した情報を私が確認するのに時間もかかる。仕方なく私自身で入力作業を行っているが、当初計画をした入力数には達していない。 以上を総合して現在までの達成度を判断すると、やや遅れていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1つの都市のデータベース作成(基礎データ+補完データの入力)には思った以上の時間がかかることが判明したので、当初の計画よりもデータをとる都市の数を減らして研究を進めることにする。都市の選定を含め準備は整いつつあるので、入力作業を担当する人さえ決まれば、現時点での遅れは取り戻せるだろう。また、どの対象都市にも共通で利用できる、商工人名録とセンサスを補完する資料として何をどのように使うのか、当初明確なアイディアがなかったが、それに関しては電子化された新聞を利用する方針がはっきりしたので、それを今年度の研究計画に新たに盛り込むことにする。 今年度は、現在継続中の都市のデータ入力を、引き続き学生アルバイトを使いながら行い、まずはそれらとキングス・リンのデータを比較分析する。その後も、複数の都市のデータ入力を行わなければならないが、それらについては、業者に委託するかどうかを早めの段階で見極める。 データ入力が終わった都市に関しては、順次、新聞をあたることにする。当時の新聞は作られた方に型があり、どの都市のものでも共通の情報を得られる。その一方で、各都市の地域性や独自性も現れると言われるが、同時代人が書いた都市史の内容と合わせて、新聞の情報を本研究にどう活かすかを検討していくことになる。 研究成果については、今年度後半に、途中経過を国内の研究会で、専門が近いイギリス史関係の研究者(社会史・都市史・文化史関係)に報告する予定である。可能であれば、商学関係の研究者への報告機会ももちたい。 最終年度(H27)に予定している共同研究者のJ.ストバート氏招聘について、今年度中に具体的な計画をたてる必要がある。「長期18世紀イギリス経済社会史研究会」とも相談しながら、渡英してストバート氏に直接会って、計画をつめるつもりである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)科研費外の支出で、試しに学生アルバイトを使って英字のタイピングや入力作業をやらせてみた。しかし、作業効率が悪く、業者に依頼することを考え始めたため、学生アルバイトへを利用することを一時的にやめ、私自身が自力でその作業を行ったため、人件費の支出がなかった。 (2)共同研究者が報告するワークショップに参加するために1月に海外渡航は行ったが、短期滞在であった。また、本格的な調査のためにイギリスに行くことができず、その分の予算を使うことがなかった。 (1)データベース作成:学生アルバイトと業者への依頼の二本立てで考える。学生アルバイトを使う場合は、単純な入力作業(時給1000円・学部生または修士学生)とは考えず、ある程度経験のある博士学生に時給1500~2000円で依頼して、様子をみることとする。業者には見積もりをとった上で、試しに1都市分の入力を依頼する。 (2)渡英調査費:12~1月、または2~3月のいずれかに、2週間程度の渡英を予定。商工人名録とセンサスを補完する資料(手紙や日記、都市史)を文書館や地方図書館、British Libraryで調査する。また、ノーサンプトン大学のストバート教授を訪問し、お互いの研究報告と、次年度の訪日計画を具体化する。 (3)資料(関連書籍、マイクロフィルム)の購入
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