2014 Fiscal Year Research-status Report
都市ルネサンス期イングランドの小売空間に関する研究―比較史的視点から―
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25380444
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
小西 恵美 専修大学, 経済学部, 教授 (90338583)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 18世紀の都市化 / 都市ルネサンス / 小売店舗 / 比較研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
18世紀のイギリス地方都市では、商業の発展を背景に新しい消費文化や社交の中心地として進展することで都市化が進んだ。都市ルネサンスとも呼ばれる18世紀イギリスの都市の活力や創造力が、どのような条件のもとで発揮されるかを、小売店舗の種類や形態、分布などに焦点を当てながら分析することが、本研究の目的である。 この時代、新しい小売り形態である常設店舗が大幅に増加したが、その中でもとくに目をひくものは消費文化の浸透を背景に出現した、最新流行の商品や輸入物を扱う小売店舗であった。小売店舗全体から見るとそれらの店舗数は決して多くはなかったが、いずれの都市においてもこうした店舗は主要な通りに地理的に集中して立地する。本研究では、いくつかの性格の異なる地方都市の小売店舗やそれらが作り出す「小売空間」を比較分析する。そして、この時期の都市に見られる共通の特徴とともに、地域性や独自性の検出を試み、それを通じて、地方都市の発展の多様な道筋を明らかにする。 H26年度は、前年度(H25年度)に見直し・修正を行ったキングス・リンのデータベースと新聞資料をもとに、詳細な分析を行った。(この成果は拙著『長い18世紀イギリスの都市化』日本経済評論社、2015年3月、に収録されている。) 次に、18世紀に発行された2つの人名録(Bailey's Directory, 1784とUniversal Directory, 1792~95)を1つずつ追っていった。住所表記がある都市は27になったが、キングス・リンとの比較を考慮し、まずはイプスウィッチ、チェスター、リーズを検討することにした。 次年度招聘しセミナーを予定している、共同研究者のストバート教授との打ち合わせは着々と進んでいる。お互いの研究情報の交換に加え、日本でのセミナー・研究会等をより効果的なものになるよう、話を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究は計画に沿って継続的に行い、着実に進めている。昨年度に作ったキングス・リンのデータベースは、新聞広告や日記・手紙その他「叙述」史料からの情報も加え、非常に有益なものができ、今後作っていく他都市のデータベースの原型にできるものであった。また、リンのデータベースをもとにした分析は、著書の一部として成果を公表できた。 しかし、著書の出版に予想以上の労力と時間がかかり、本研究のための新しいデータベース作りは、当初の計画以上のペースでは進まなかった。H26年度終了時点の段階で、計画は「やや遅れ」ていたが、その遅れを1年間で取り戻すことはできなかったことが、現時点で「やや遅れている」最大の要因である。 昨年度の遅れの原因は大きく3つあった。(1)都市の性格などを基に、分析対象とする都市を先にリストアップしたが、人名録や新聞等のデータベース作りに必要な情報源がない場合が少なくなかったこと。(2)主要な通りが特定しづらいこと。(3)学生アルバイトの効率性・正確性がかんばしくないこと。 (1)に関しては今年度は改善され、作業は進んだ。(2)に関しては、通り名のかかれた地図の入手が難しく、まだ改善されてはいない。(3)も改善はされていないが、学生アルバイトを複数・長時間使うことで作業の進行は昨年よりも進むようになった。しかし正確性に関しては向上はあまり見られないため、初期入力は私自身で行い、その確認と修正をアルバイトに任せる方法を採らざるを得ず、これもまた、昨年の遅れを取り戻せない理由の1つである。 次年度にストバート教授を招聘する件に関しては、イギリスに私は行かれなかったが、その分、メールでやりとりをし計画を進めているので、まったく問題はない。
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Strategy for Future Research Activity |
大筋においては、当初の計画に変わらず、多様な地域に立地する多様な性格をもつ都市の商業空間を比較する。まずは、イプスウィッチ、チェスター、リーズに加え、ウースター、シェフィールド、ハルの18世紀末の店舗の地理的分布の分析をしたあと、19世紀の人名録で同様の作業を行い、データベースを完成させ、分析を行う。次に、上記六都市よりも人口が多い地方大都市でも同様の結果が出るかどうかを検討する。都市の候補としては、エクセターとノリッジを考えている。入力作業は、私自身が初期入力をし、学生アルバイトに確認・修正を行わせるが、どうしても時間的に間に合わないようなら、業者に委託する。 新聞情報をデータベースに加える作業は、1年間という限定された時間の中で、全ての都市の事例で行うわけにはいかない。人名録の分析結果に応じて、いくつかの都市に絞り、電子化新聞を検討する。 ストバート教授は9月24日(入国)から10月5日(出国)に来日し、3回の公開セミナー(神奈川、東京、大阪)、2回の共同研究者たちとの研究会(東京)、加えて共同研究に関する打ち合わせを行う予定である。共同研究のテーマは「近世の都市社会における消費と文化」であり、セミナーではストバート教授に都市の消費と小売り(ヨーロッパ諸国の比較研究)について報告をしてもらう。また、本研究の中間報告を研究会で行い、ストバート教授たちからのコメントをもらう予定である。 冬休みか春休みには、私が渡英(または渡仏)し、研究成果の報告を行うと同時に、本研究の完成に必要な資料の収集を行う。渡英の際には、マンチェスター・メトロポリタン大学(ストバート教授は、H27.4よりノーサンプトン大から異動)にも訪問予定である。
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Causes of Carryover |
(1)単著の出版のため渡欧の時間がとれず、予定していた旅費(30万円程度の予算)を使わなかったことが、予算未消化の最大の要因である。それ以外に関しては、今年度は当初の計画通りに使ったものの、昨年度からの繰り越し分はそのままになっているため、次年度への繰越し額はさらに大きくなってしまった。 (2)マイクロフィルムの注文も行ったが、文書館も電子化が進みコストが低くなった。従来は文書館が作成したマイクロを、電子化または紙媒体にプリントアウトする作業を国内の業者に頼んでいたが、文書館がはじめからデータを電子化してくれるため、予想をはるかに下回る費用で史料を獲得できた。 (3)電子化されウェブからダウンロードできる史料が予想以上に多く、マイクロを注文する機会が少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
基本的には当初の計画(ストバート教授来日関係、入力アルバイト等の人件費、基礎資料の購入、渡欧)に沿って予算を使用する。 それに加え、予算の繰り越し分は、以下のような使途を考えている。(1)最終年度の予算は、ストバート教授の来日関係のもの(旅費、謝金)を算出してあるが、それに加え、数回の公開セミナーにおける通訳の人件費を追加で使う。(2)渡欧の際、滞在期間を当初の計画より少し長めに設定し、イギリスの他に、できればフランスとベルギーの都市史研究所にも行き、資料の収集と研究者との情報交換を行いたい。(3)人名録の入力作業に関しては、数都市は私自身とアルバイト学生で行うが、残りは業者に頼んで、処理速度と正確性を高める。
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