2016 Fiscal Year Research-status Report
製紙資本における多角化状況の違いが企業自身及び林業・木材産業の発展に与えた影響
Project/Area Number |
25380455
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
嶋瀬 拓也 国立研究開発法人森林総合研究所, 北海道支所, チーム長 (80353720)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 巨大複合林産企業 / 針葉樹/広葉樹 / 国有林/民有林 / クラフトパルプ(KP)法 / 木材チップ / 林種転換 / 原料転換 / 産業史 |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国に巨大複合林産企業の形成が進まなかった要因と、そのことが林業・木材産業の発展にもたらした影響を明らかにするため、日米両国における林業・木材産業・製紙業間の関係を比較史的に検討した。前年度は明治期から昭和戦前期を検討したため、当年度は戦後期を検討した。第二次世界大戦の敗戦により、エゾマツ・トドマツなどの針葉樹を中心とする南樺太・朝鮮半島の外地資源を喪失したわが国の製紙資本は、広葉樹にしか供給余力がなかった内地資源に適応すべく、その利用が可能なクラフトパルプ(KP)法への転換を急いだ。この転換が、製紙業自身や、他の産業部門との関係を大きく変えることとなった。まず、広葉樹は天然林に多かったため、天然林伐採が進み、針葉樹を中心とする人工林への林種転換が促された。次に、内地には所有が小規模・分散的な民有林が多く、大量・安定的な原料調達が困難であったため、製紙業は木材チップ工業という産業部門を作り出し、原料調達の外部化を図った。さらに、KP法は、設備が高額な反面、高品質のパルプを大量かつ高効率に生産できたため、これをいち早く導入したわが国の製紙業は、高い国際競争力を身に付けた。日本経済の高成長に伴う国内紙・パルプ需要の増大も後押しして、わが国は米国に次ぐ世界第2位の紙生産国となったが、国内原料のみでは賄い切れず、チップ専用船を導入して輸入チップへの切り替えを図った。このように、当初内地資源を利用するために導入された「KP法」と「木材チップによる原料調達」は、製紙業の発展に大いに貢献したが、後に国内森林資源との関係を希薄化させる要因となった。また、木材チップによる原料調達の拡大により、製紙業が自ら素材(丸太)利用の最適化を図る必要性は薄れ、製材業や合板工業などの産業部門を内部に抱える動機は失われていった。これが、わが国において巨大複合林産企業の形成が進まなかった要因と考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「製紙資本における多角化状況の違いが企業自身やそれぞれの国・地域の林業・木材産業に与える影響を比較史的アプローチによって解明するとともに、わが国の製紙資本が複合企業化しなかった要因を歴史的、制度的、その他社会経済的側面から抽出する」という本研究の目的について、すでに概ね達成しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究目的については、上記のとおり、すでに概ね達成しえたと考えている。次年度が計画の最終年度となることから、不足する部分を追加調査・分析によって補いつつ、学会発表や原著論文などの形で成果の取り纏めと発信に取り組む。
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Causes of Carryover |
(1)データベースサービス利用料が当初見込額を下回ったため。
(2)出張で得ようとしていた情報がデータベースサービスや文献複写サービスなどにより入手でき、出張を取りやめたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
成果のとりまとめの中で生じることが予想される追加的な情報収集の費用として充当する。
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Research Products
(1 results)
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[Presentation] 木材利用と森林の戦後史2016
Author(s)
嶋瀬拓也
Organizer
北海道の将来をささえる森づくりを学ぼう
Place of Presentation
釧路市立博物館(北海道釧路市)
Year and Date
2016-10-29 – 2016-10-29
Invited