2015 Fiscal Year Research-status Report
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25380460
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
吉森 賢 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 名誉教授 (20182834)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カリスマ経営者 / カリスマの功罪 / 企業統治 / 自己過信 / 自己拡大 / 量的市場地位偏重 / 技術至上主義 / 企業文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は研究対象国ドイツにおいて4月にフォルクスワーゲン社においてカリスマ経営者として知られるピエヒ監査役会会長が突然辞職する事態が生じた。これはピエヒ会長がシュピーゲル誌にヴィンタコーン社長の契約更新をしない旨を漏らしたことが原因である。監査役会の評議委員会はこれに反対し、同社長の留任を認める決定をした。ピエヒ会長はこの結果辞職を発表し、5月の株主総会で正式に辞職した。委員会の決定はピエヒ会長が監査役会で検討すべき社長人事を個人として行ったことが、根拠がないこと、そして違法行為であることが監査役会はピエヒ会長の決定を違法として退けた結果生じた。 このような事態はカリスマ経営者がしばしば陥る自己過信によると研究課題の企業衰退の原因の一つと考え、カリスマ性を有する最高の権力を有する経営者を監視するための企業統治の必要性を強調するに至った。 さらに今年度9月にはアメリカにおいて同社のディーゼルエンジンが排ガス不正二より糾弾され、世界的な関心を呼んだ。このため同社の同エンジンの開発過程を調査した結果ピエヒ会長がその開発者であることが判明した。この結果を論文として発表し論文の項目に示した。偶然ではあるが日本でも同様なカリスマ経営者の辞職が生じ、カリスマ性の有するリスクの認識とこれを阻止するための企業統治の必要性を論文で論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドイツについては本報告に示した論文および著書により研究は進展した。フランスについては5月14日に日仏経営学い会において発表できる程度に研究は進んだ。イギリス、アメリカについては資料が集まり、来年度は執筆に着手したい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度においては経過3年度における研究結果を総括する。更にこれに基づき来年度以降に取り組むべき研究方向を明らかにする。総括の第一は企業の衰退は他の同業企業の連鎖反応を惹き起こす事実を自動車、家電製品、半導体について指摘する。第二はその原因の一つが企業家のカリスマ化であり、これに伴う企業家とその継承者の過度の自尊心、自己過信、自己満足、自己拡大である。米英の自動車産業、鉄鋼産業、等においても生じた。その共通要因は新興競争企業の出現に対する不適切な対応にある。同様に19世紀末独製品の増加を巡り生じた英独貿易摩擦において英国は独製品の品質の悪さを非難したが結局敗北した。日本企業もその優位性に過度の自信を有したため韓国や台湾の競争力向上を過小評価し、対応に遅れた。世界的首位企業は自己拡大行動につながり衰退する。以上の企業による企業衰退の防止対策としては企業統治に加え経営理念、企業文化、企業倫理、企業戦略を成文化した企業憲章の策定とその実施状況の確認と監督が企業統治の役割として重視されるべきである。 次年度以降の研究課題としては米英独仏日5か国における教育制度と代表的大学が各国民のいかなる理想的人物像の育成のための教育を実施しているかを調査する。これにより各国の経済成果がいかに異なるかを明確にする。これは各国の資本主義の性格にも多大な影響力を及ぼすと考えられる。たとえば仏エコール・ポリテクニクは高度な数学を中心として科学、物理学などの抽象的・理論的科学理論の教育により国家の指導者を目的として設立された。そのため同大は形式的にせよ国防省に属し、中央行政府との関係が密接である。同校は必然的に国家資本主義の性格が濃厚である。同様に他の4国についても調査し、それぞれにおいて資本主義の発達において教育制度が果たす役割を明らかにする。
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