2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25380472
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
長瀬 勝彦 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (70237519)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | リスク評価 / 個人と集団 / 意思決定 / 確率 / 重大度 |
Research Abstract |
災害などのリスクの大きさの評価の代表的なモデルのひとつが,「生起確率(probability)」と「重大度(magnitude)」の積で表すモデルである。われわれは,生起確率と重大度の見積もりのそれぞれにおいて個人と集団(2名で構成される)の間に差異があるかどうかを実験によって調べた。実験手続は,選択シフトの実験で標準的に用いられるものと同様である。すなわち,ひとつの問いについて,まず個人で回答し,次にペアを組んだ相手と合議して合意の上で一致した回答をする。個人回答と集団回答との差を統計的に分析する。われわれは,個人よりも集団の方が確率を小さく見積もり,被害金額で表される重大度もまた小さく見積もると予想した。また,個人よりも集団の方が災害リスクの生起確率を小さく積もる度合いは,自己のリスクの場合の方が他者のリスクの場合よりも大きいと予想した。これらの仮説をもとにして,5つの実験をおこなった。実験に用いられた質問紙には,大地震の発生や地球への隕石衝突の確率と被害の見積もりについての問いが記述されていた。参加者はいずれも大学生で,人数は実験1(隕石衝突・頻度)が74名,実験2(隕石衝突・被害規模)が86名,実験3(大地震・確率・自己)が84名,実験4(大地震・確率・他者)が84名,実験5(大地震・被害規模)が90名である。結果は,確率と重大度ともに個人と集団との間に統計的に有意な差は見出されなかった。また,自己のリスクの場合と他者のリスクの場合との間にも差は見出されなかった。仮説は支持されなかったものの,これらの間に差がないことを見出したことはこの分野の研究に幾分かの貢献をなしうるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究が予定よりも遅れた最大の原因は,既存研究のレビューの遅れとそれに伴う実験計画の策定の遅れにある。リスク認知に関する既存研究は極めて膨大であり,選択的にレビューしてもなお相当の時間を要した。レビューに時間がかかることが相当程度明らかになった段階で研究計画を転換した。すなわち,すべてにわたってレビューが済んでから実験計画を立てるのでなく,ある程度レビューが済んだ項目に関しては先行して実験をおこない,その他の項目のレビューは実験と同時並行的におこなうことにした。それでも実験計画策定の開始が遅れてしまい,今年度に実施できた実験は当初予定よりも少なくなってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の実験では,Loewensteinの古典的なリスク評価のモデルであったが,リスク評価のモデルは他にもいくつかあるので,それぞれについて既存研究のレビューを精力的に進めたい。本年度はリスク評価に関する研究を中心にレビューしたが,それを進める一方で,個人の判断と集団の判断との関連もしくは相違についての研究もあらためてレビューを進めたい。具体的には,古典的リスキーシフト研究にさかのぼって,そこから現在に至る研究の流れを概観する。上記の2つの分野のレビューから,新しい仮説を構築し,実験計画を策定して実行していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
おこなわれた実験が当初企図したよりも少なく,また実施した実験も参加者等はボランティアでまかなえたことにより,実験参加者や実験補助者,資料整理・データ集計者等への謝金の支出が予定よりも少なかったことが最大の原因である。 今年度は当初計画よりも多く実験をおこないたい。それによって,実験参加者や実験補助者,資料整理・データ集計者等への謝金の支出が増えるので,順調に執行されることが期待される。そのほか,関連文献の購入,出張等も必要に応じて精力的におこないたい。
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