2013 Fiscal Year Research-status Report
知識ベース理論と取引費用経済学を用いたフランチャイズの利用理由に関する研究
Project/Area Number |
25380515
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
小本 恵照 駒澤大学, 経営学部, 教授 (50554052)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | フランチャイズ / 知識移転 / ケイパビリティ / 取引費用 / 小売業 |
Research Abstract |
平成25年度は、フランチャイズの利用の理由を明らかにするため、(1)知識ベース理論と取引費用理論の文献サーベイ、(2)文献サーベイに基づいた質問票調査の実施と分析を行った。 まず、文献サーベイについてみると、フランチャイズの利用には知識の移転が特に重要と判断し、知識移転に重点を置いて先行研究の検討を行った。その結果の一部については、「小売業における複数店経営と知識移転」という論文として発表した。なお、小売業に関する論文としたのは、質問票調査の対象に小売企業を予定していたためである。 次に、知識ベース理論と取引費用理論をもとに、フランチャイズ利用を説明する仮説を構築し、大手小売業900社に対して質問票調査を郵送によって実施した。その結果、分析可能な調査票を208枚回収した。なお、調査票作成に先立ち企業に対するインタビュー調査を行った。 回収した調査票を分析したところ、まず、業務が標準化されるほど、フランチャイズの利用が多いことが判明した。第2点として、本部と店舗間に緊密なコミュニケーションが必要な場合には、フランチャイズの利用が減少することが明らかになった。第3点として、店舗運営のために店長に求められる能力が高くなるほど、フランチャイズの利用が減少することが判明した。第4点として、店舗運営を正社員以外に委ねることに伴うリスクの認識(高い不確実性)は、知識移転がフランチャイズ利用に与える影響の大きさを変化させることが判明した。具体的には、、(1)業務の標準化、(2)コミュニケーション、(3)本部の店舗に対するコントロールといった要因のフランチャイズの利用に対する影響の大きさが、不確実性の違いによって変化することが判明した。この結果は、知識移転に関する要因がフランチャイズの利用に影響を与えるものの、不確実性に示される取引費用要因も同時に影響を与えていることを示している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、知識ベース理論と取引費用理論の知見をもとに、知識移転や取引費用といった要因が、フランチャイズの利用に影響を与えているのかどうかを分析することを目的としていた。目的達成のための具体的な活動としては、文献調査、企業インタビュー調査、質問票調査の実施を計画していた。 文献調査については、知識移転と取引費用などに関する先行研究を批判的に検討し、その結果の一部は論文の発表につなげることができた。企業に対するインタビュー調査と質問票調査についても年度内に調査を完了すると同時に、回収した質問票のデータ分析についても一定の結果を得ることができた。なお、データ分析結果の一部については、26年度に組織学会と日本商業学会で発表することが決まっている。これら実績を踏まえると、本研究の現状は「やや遅れている」という状態には該当しないと判断した。 一方、質問票調査については、25年度は文献調査と企業に対するインタビュー調査などをもとに実施した。しかし、研究を進める中で、取引費用理論と比較すると、知識ベース理論には実証分析を進めるために不可欠な精緻なミクロ的基礎が十分に確立されていないことが判明した。このため、平成25年度の質問票調査の項目の一部については、頑健な理論的裏付けが不足している可能性がある。また、知識ベース理論と取引費用理論は相互に独立した理論ではなく、両者が相互に関係しているという見解も有力となっており、この点でも改良の余地がある。このような点を踏まえると、フランチャイズの利用を、知識ベース理論と取引費用理論を用いて検討する方法には、依然として改善の余地があると言える。こうした不足点を考慮すると、「当初の計画以上に進展している」というレベルには到達していないと判断される。 以上の判断を踏まえ、本研究の現状を「おおむね順調に進展している」という評価とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、平成25年度の研究で不足していることが判明した知識ベース理論の精緻化を独自に進める中で、マルチユニット・フランチャイズの解明を目指した研究を遂行する。具体的内容は次のとおりである。 (1)マルチユニット・フランチャイズに関する文献調査と仮説構築:まず、1990年代半ばから海外で研究が進展しているマルチユニット・フランチャイズに関する先行研究をサーベイし、理論的に不十分な点を解明する。その上で、平成25年度に実施した知識ベース理論と取引費用理論の再検討を踏まえて、マルチユニット・フランチャイズ現象を説明する仮説構築を行う。仮説構築は、複数店を経営することに伴い加盟者に必要とされるケイパビリティ(知識の蓄積)と、複数店経営による不確実性の減少の効果に焦点を当てて行うことを現時点では考えている。 (2)インタビュー調査:マルチユニットを積極的に利用している企業(フランチャイザー)を選定し、マルチユニット戦略に焦点を当てたインタビュー調査を実施する。企業の選定は、新聞や雑誌の検索および企業のIR情報などによって選定する。インタビューは10社程度のフランチャイザーを予定している。インタビュー結果は、仮説構築と質問票調査の質問項目に反映させる。 (3)質問票調査:フランチャイザーに対して質問票調査を実施する。調査に当たっては、マルチユニット・フランチャイズの調査を行うため、平成25年度調査と文献検討を踏まえて適切な質問項目を開発する。調査対象とする業種は、文献の検討や業界の実情を精査した上で判断する。現時点では、飲食店もしくは小売業を想定している。具体的な調査内容としては、①マルチユニット・フランチャイズの利用状況、②店舗運営を中心とした業務特性、③経営資源の状況、④経営の重点項目などを考えている。回収された調査票をもとに回帰分析や共分散構造分析を行うことを予定している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は文献調査を進めることを研究の中心の一つとしていたが、文献収集に必要な費用を削減できたことが、次年度使用額が生じた最大の理由である。 費用の削減が生じたのは、本研究への応募後に勤務先大学が静岡文化芸術大学から駒澤大学に変わったことによる。静岡文化芸術大学では、研究を進める上で必要な論文や書籍を入手するためには、かなりの割合で外部の研究機関などから取り寄せる必要があったが、駒澤大学では学内の蔵書もしくはデータベースから多くを入手することができるようになった。この結果、約10万円の余剰が生まれる結果となった。 平成26年度も質問票調査を予定しているが、質問票調査では配付する質問票が多いほど回収枚数も多くなり、分析の精度を高めることができる。このため、次年度使用額は質問票調査を充実させるために使用する予定である。
|