2014 Fiscal Year Research-status Report
知識ベース理論と取引費用経済学を用いたフランチャイズの利用理由に関する研究
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25380515
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
小本 恵照 駒澤大学, 経営学部, 教授 (50554052)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フランチャイズ / 知識移転 / 組織文化 / 取引費用理論 / 知識ベース理論 / 飲食業 / 意思決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、知識ベース理論などの文献サーベイを進める中で、フランチャイズ利用の意思決定プロセスに関する理論研究と実証研究を実施した。 まず、意思決定プロセスに関する理論研究では、フランチャイズ利用という意思決定が、意思決定タイプの中の戦略的意思決定に該当することを明らかにした。その上で、フランチャイズ利用の意思決定では、知識ベース理論と取引費用理論による要因が影響を与えるものの、両理論では説明できていない事実が存在することを明らかにした。説明しきれていない事実を解明するため、企業が置かれた文脈(context)に着目したところ、組織文化が特に重要であることが判明した。これら一連の理論研究を整理し、その一部については、「企業の境界に関する意思決定と組織文化」という論文として発表した。 次に、理論研究を踏まえて実証分析を行った。具体的には、フランチャイズ利用に関して、知識ベース理論と取引費用理論に加え、組織文化を要因として取り入れた仮説を構築した。この仮説を検証するために、大手飲食業1,000社の代表者に対して、郵送による質問票調査を実施し、分析可能な134の回答を得た。 回収した調査票をもとに、組織文化が調整変数(moderator)となる回帰分析を行ったところ、次のことが判明した。(1)本部と店舗間の知識移転の容易化につながる「知識符号化」が大きくなると、フランチャイズの利用が促進される。(2)組織文化がフランチャイズ利用に与える直接的影響は観測されなかった。(3)組織文化がフランチャイズ利用に与える影響は、本部と店舗間の知識移転の程度の違いを考慮すると顕在化する。 この結果は、「知識移転が容易である」という条件が満たされた場合には、直営方式とフランチャイズ方式のいずれもが選択可能となり、組織文化が意思決定に与える影響が顕在化することを示していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究目標は、平成25年度の研究で不足していると判断された知識ベース理論の精緻化などを進め、可能であればマルチユニット・フランチャイズの研究を行うことにあった。目標達成に向けた具体的な活動は、文献調査を踏まえた仮説構築と質問票調査による仮説の検証(実証研究)であった。 まず、仮説構築についてみると、(1)知識ベース理論の再検討、(2)最終的な決定に至るまでの意思決定プロセスの解明、(3)意思決定プロセスで重要な役割を果たす組織文化への着目などによって、堅固な理論的基礎を有する仮説を構築することに成功した。次に、質問票調査については、仮説の構成概念を的確に計測できる尺度を利用し質問票調査を実施した。回収された質問票に対して統計解析を行い、複数の仮説が支持されることを示すことに成功した。理論研究と実証研究の成果をみると、理論研究の一部の成果についてはすでに論文として刊行した。また、実証分析についても、学会発表審査をクリアし、2015年度に学会発表することが決まっている。さらに分析結果を論文としても書き上げ、雑誌掲載のために投稿済みである。上記のような実績を踏まえると、「遅れている」や「やや遅れている」には該当しないと判断した。 しかし、目標に加えていたマルチユニット・フランチャイズに関する研究については、意思決定と組織文化に関する理論研究に予想以上の労力の投入が必要となったことから、分析するには至らなかった。また、知識ベース理論などの理論に対して、何らかの修正や改善を迫る理論的貢献ができるほどの成果を挙げていない。さらに、実証研究における、知識ベース理論の計測尺度については、依然として改良の余地があると判断している。 以上のような不足点を踏まえると、「当初の計画以上に進展している」と判断することは難しいため、「おおむね順調に進展している」という評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、過去2年間の研究成果と課題を踏まえ、フランチャイズの利用を企業の経営戦略と位置づける中で、意思決定プロセスの分析の精緻化を目指す。当初の研究では、マルチユニット・フランチャイズや加盟者の研究を行うことを想定していたが、フランチャイズ利用の本質を解明するには、企業がフランチャイズを開始するという意思決定プロセスの分析が極めて重要だということが判明したためである。すなわち、意思決定について精緻な分析枠組みを設定しない限り、フランチャイズ利用に関する高レベルの研究成果を出すのは難しい。このため、マルチユニット・フランチャイズについては、研究の進捗状況を踏まえ、可能であれば研究対象にするということにする。こうした点を踏まえた、具体的な研究計画は次のとおりである。 (1)理論研究:意思決定プロセスの分析では、フランチャイズを開始するという判断を行う瞬間が重要な研究対象となる。そこでは、知識ベース理論と取引費用理論が主張する要因が重要な判断材料として、経営者に認識されていることが必要条件となる。経営者の認識に影響を与える要因として、前年度は組織文化に着目して分析を加えた。しかし、資源不足理論が主張するように、フランチャイズは、企業の有力な成長戦略である。この視点に立つと、企業家研究で重要な構成概念である「企業家志向」という、経営者の態度や行動の特性に着目した理論構築が有力なアプローチになると考える。ついては、企業家研究の成果を取り入れ、知識ベース理論と取引費用理論の影響を鮮明化できる理論を構築する。 (2)実証研究:理論を踏まえて仮説を構築し、質問票調査を実施する。分析対象は、フランチャイズの利用が多い小売業などの約1,200社とする。構成概念の計測については、先行研究で開発された適切な尺度を利用する。分析については、複雑な因果関係の分析が可能な共分散構造分析を行う。
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Causes of Carryover |
勤務先変更に伴い、平成25年度において、書籍や雑誌などの購入費が当初の予想を約10万円下回った。この平成25年度の余剰金を平成26年度も引き継いだことが、次年度使用額が生じた主たる理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度に実施した質問票調査では回収できた調査票の数は予想よりかなり少なかった。平成27年度は、次年度使用額を財源として、質問票の送付先を増やすことにする。
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