2013 Fiscal Year Research-status Report
アジア新興市場における共生型の異文化マネジメントモデルの探求
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25380543
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
太田 正孝 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (00123068)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池上 重輔 早稲田大学, 商学学術院, 准教授 (30468855)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 異文化マネジメント / アジア新興市場 / サービスビジネス / CDEスキーマ / コンテクストマネジメント / 国際知識移転 / 共生型ビジネスモデル / リージョナル統合 |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、アジア市場でメタナショナル展開する下記の3つの企業事例に肉薄することで、サービスビジネスの国際化は「コンテクスト」「距離」「埋め込み」の複合的メカニズム(CDEスキーマ)の影響を強く受けることを検証する点にある。 1)DNAカレッジ: 電通アジアがASEAN現地スタッフをDENTSU WAYに「内部埋め込み」するために2006年に起ち上げた社内カレッジの事例研究。電通本社関係者と電通アジア現地スタッフに数回の聞き取り調査を行い、暗黙知移転のカギは関係者間の脱コンテクスト化と再コンテクスト化にあることを確認。成果の一部は国際ビジネス研究学会で発表済み。 2)康師傅: 台湾出自の「康師傅」が中国市場で日本企業と共生関係を成功裏に構築する際の異文化マネジメントに関する事例研究。3年前から同社の全面的協力を得て定点観測的に実態調査を実施しており、成果の一部はAsia Academy of Managementで発表済み。 3)TaQbin: ヤマト運輸が上海、シンガポールに進出した2011年から同社の全面的協力を得て定点観測的に進めている事例研究。TaQbinは日本独特の高品質サービスかつ純粋役務であるため、本研究課題を直接的に実証しうる最重要プロジェクト。25年度は、シンガポールとマレーシアの現地法人経営陣ならびにTaQbinの競争力源泉であるSDI(Sales Driver Instructor)への聞き取り調査を複数回実施。25年度はケース1本の執筆に留まっているが、今後は過去3年半の調査結果に基づき学会発表、ケース、論文ならびに書籍の執筆を加速していく。なお上記3社の事例研究は今年度中に発刊される『異文化マネジメントの理論知と実践知』(太田編著、同文舘)に収録される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者(太田)と研究分担者(池上)は、以前から同様のアプローチで研究していたため、初年度の2つのタスク、①異文化マネジメントの理論的系譜の整理、②フィールドリサーチの実施はスムーズに進めることができた。また本研究課題申請時にはまったく予測しなかったが、前者の派生物として異文化マネジメント理論に関する最大の研究グループGLOBEの近刊書“Strategic Leadership Across Cultures”の日本語版監訳を太田が務めることになった。本書は本研究課題の理論的向上のみならず、我が国の異文化マネジメント研究の進展にも貢献しうる。フィールドリサーチ実施は周到に準備をしたうえで、8月に池上がマレーシア・ヤマトのプレ調査、26年に入って2月に池上が頂新国際集団傘下の最大企業である「康師傅」の柯幕僚長(最高執行責任者に相当)へのインタビューを上海で実施。最後に太田が3月にシンガポールに2週間弱滞在して、シンガポール国立大の研究仲間とも連携しながら、ヤマト運輸のTaQbin事業の実態と課題についてインタビューを実施した。また本テーマに深く関わる公開フォーラム(「日本企業とアジアリージョナル戦略」」)を10月に早稲田大学で開催し、康師傅の柯幕僚長、ヤマト運輸の木川社長に加えて日産自動車の小枝名誉会長を招聘し、本研究課題の2年目以降に向けた知識共有の基盤づくりを行った(『産研フォーラム No.39』として刊行済み)。最後に、日本型サービスに共通の「おもてなし」と欧米型サービスの基盤でもあるHospitalityとの違いは何か、おもてなし型サービスは海外移転可能かについて、1月に日本マーケティング協会と共催でセミナーを開催した。以上のとおり、初年度の研究計画は大きな成果を収めたものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、1)TaQbinという一種の制度的イノベーションを通じたアジア市場での共生的成長、2)台湾出自の康師傅が中国市場で展開する日本企業との共生的関係など、海外調査が絶対条件であり、26年度以降も同様の方針を堅持していく。同時に本年度は、太田が在外研究(3月~9月)でIMDとケンブリッジ大学に所属するため、昨年度と異なる展開も可能となる。一つは、英国のAegisを買収した電通が、今後ともリージョナル統合に基づく共生的ビジネスモデルを継続できるか否かの考察である。いま一つはヤマトと同じく純粋役務企業であるComfortDelgro(本社シンガポール)のタクシービジネスのグローバル展開との比較研究である。同社はタクシー保有台数世界一を誇る巨大陸上輸送企業で、早くから純粋役務のグローバル展開を推進しているHidden Championでもある。ロンドン市内のタクシー、バスの4割近くが同社の傘下にあり、中国主要都市でもタクシービジネスを大々的に展開している。そのネットワークはベトナム、オーストラリアさらにはアイルランドにも及ぶが、よく観察すると英連邦と中国社会に限定されていることが分かる。その意味では、TaQbinビジネスが文化的距離の近いアジア諸国にサービスネットワークを展開している論理と基本的に同様であるが、より複雑な形で機能している意味では本研究課題を解く新たなカギを提供しうる。AegisならびにComfortDelgroの欧州拠点はロンドンにあるため、効果的な調査活動が可能となる。特にComfortDelgroについては、3月のシンガポール滞在中に、旧知の本社CEOから協力を確保済みである。こうした新たな事例研究の可能性と平行して、ケース、論文を複数執筆するだけでなく、前述の2冊を今年度中に刊行することでさらなるモメンタムを確保していく。
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Research Products
(11 results)