2014 Fiscal Year Research-status Report
サンフランシスコ市の商店街活性化:協働型計画の役割に関する理論的・実証的研究
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25380570
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
畢 滔滔 立正大学, 経営学部, 教授 (70331585)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | まちづくり / 観光 / 商店街 / 協働型計画 / マイノリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、協働型計画の先駆け的都市であり、かつ衰退した商店街の再生に成功したアメリカのサンフランシスコ市に関する事例研究を通じて、商店街の活性化に対して協働型計画が果たす役割を理論化することにある。平成26年度は、サンフランシスコ市における3つのマイノリティ地区の商店街、すなわち(1)チャイナタウンおよび(2)サウスオブマーケット、 (3)ノースビーチの商店街について調査を実施した。これらの地区はどこも、かつては市当局によって荒廃地区とみなされ、消滅の危機にあった。しかし、現在はコミュニティの中心として、また世界的な観光地として成功を収めている。研究の結果は以下の2点にまとめることができる。 第1に、サンフランシスコのマイノリティ地区の保存と発展において最も重要な役割を果たしたのは、マイノリティ自身にほかならない。マイノリティグループの持続的な草の根活動は、彼らの地区独自の文化を維持し、発展させただけではなく、多様性に富み、他者に寛容な街というサンフランシスコのアイデンティティの形成にも大きく寄与した。 第2に、観光振興と商店街の再活性化を実現するためには、地元住民や商人、活動家がイニシアチブをとり、協働計画を実施することが不可欠である。公的機関は、その時代の支配的な文化やライフスタイルに従って意思決定する傾向がある。彼らは、マイノリティの文化の価値を認識しているとは必ずしも言えない。しかし、ある時期において、主流から「逸脱」したものとして捉えられていた文化やライフスタイルが、マイノリティの努力によって、今日では一般の人々に理解され、結果的に文化ツーリズムの重要な資源となっている例は少なくない。こうしたマイノリティの文化とライフスタイルを維持し発展させたいという熱意を持った地元関係者を、政策策定の場に参加させることが、観光振興と商店街の再活性化にとって重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、アメリカのサンフランシスコ市に関する事例研究を行い、商店街の活性化に向けて協働型計画が果たす役割を理論化することである。平成26年度には実態調査と理論研究を行った。以下の3つの理由から、本研究はおおむね順調に進展していると自己評価する。 第1に、実態調査は計画通りに実施された。実態調査の主な課題は、世界的に有名な観光地区であるサンフランシスコのマイノリティ地区商店街の再生の仕組みを明らかにすることである。その目的を達成するために、平成26年度においては、サンフランシスコ市の3つのマイノリティ地区において現地調査を行った。地区の関係者および市役所の職員、観光振興政策の立案者に対してインタビュー調査を実施するとともに、文書・画像・映像資料を収集した。 第2に、理論研究も計画通りに遂行した。理論構築の主要な課題は、協働型計画および都市観光、文化ツーリズム、コミュニティ開発に関する文献をレビューし、観光政策の策定方法が商店街の発展に与える影響を理論的に整理することである。平成26年度においては、アメリカのマイノリティの歴史や都市観光、協働型計画などの文献をレビューし、観光政策の策定方法と観光資源形成の関係を理論的に検討した。 第3に、本研究の成果を、研究書および査読付き論文として公表した。平成26年11月に、論文「サンフランシスコのサウスオブマーケット:レザーサブカルチャーとゲイツーリズム」(『マーケティングコンファレンス2014プロシーディングス』pp. 164-176)が刊行され、コンファレンス・ベストペーパー賞を受賞した。また、平成27年5月には『チャイナタウン、ゲイバー、レザーサブカルチャー、ビート、そして街は観光の聖地となった:「本物」が息づくサンフランシスコ近隣地区』(白桃書房)が出版される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、サンフランシスコに関する研究から得られた帰結を、アメリカの他の都市に一般化することができるかどうかを検討する。具体的には、コンパクトシティや持続可能な都市として世界的に著名なアメリカ・オレゴン州ポートランド市に関する事例研究を行い、同市における都市計画の方法が、市街地および商店街の変化に及ぼした影響を分析する。平成27年度は、実態調査と理論研究を行う予定である。 実態調査では、ポートランド市において協働型計画が導入された背景を明らかにした上で、運用の方法や政策が市街地および商店街の変化に与えた影響を分析する。現地におもむき、主として以下の2つのデータ収集作業を行う。第1に、ポートランド州立大学の研究者、同市の非営利団体の職員と活動家、市役所の職員、さらに商店街の起業家たちに対してインタビュー調査を実施する。第2に、関連する文書・画像・映像資料を収集する。 一方、理論研究では、協働型計画および脱工業化都市の経済発展とまちづくりに関する文献をレビューし、政策の策定方法が脱工業化都市のまちづくりに与える影響を理論的に整理する。 サンフランシスコに関する研究を通じて、脱工業化都市のまちづくりについて次のことが明らかになった。すなわち、住民と観光客両方にとって魅力的な場所をつくりあげ、都市経済の持続的な発展を実現するためには、地元関係者がイニシアチブをとってまちづくりを行い、公的機関が経済成長から質の高い都市生活環境の整備へと政策の重点を移し、さらに両者が協働型計画を実践することが不可欠である、ということである。平成27年度の研究では、こうした指摘がアメリカの他の都市に当てはまるかどうかを、実態調査の結果を踏まえて検討し、協働型計画と市街地・商店街再生の関係に関するより一般性の高い結論を導く。
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