2013 Fiscal Year Research-status Report
カスタマイゼーション・サービスのジレンマに関する多変量解析
Project/Area Number |
25380571
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小野 晃典 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (20296742)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マスカスタマイゼーション / 市場志向 |
Research Abstract |
本事業にとって初年度にあたる本年度においては、本事業のテーマである「マスカスタマイゼーション」の批判的検討に際して、資料収集・情報収集を実施した。また、それにとどまらず、予備的な論文を執筆して、世に問うことによってフィードバックを得て、今後の残り2年間の方向づけを実施した。 まず、幾つかの分析ツールを探索した。その1つは、市場志向研究であった。市場志向研究は、単に顧客の求めに応じて彼らの顕在的ニーズに合致した製品を開発・供給するシステムを志向する反応型市場志向の他に、顧客の側が求めるのではなく企業の側から提案することを通じて潜在的ニーズに合致することができるような製品を開発・供給するシステムを志向する「先行型市場志向」の重要性を主張している。この主張は、現状のマスカスタマイゼーションの問題点を浮き彫りにする。というのも、マスカスタマイゼーションは、通常、企業が顧客に提案し潜在的ニーズを満たしたマスプロ製品をベースとして、その一部の仕様変更を、顧客の側の「注文」に応じて行い、顕在的ニーズを満たすだけのシステムではないかと指摘しうるからである。 この新しい分析視覚の是非に関して、初年度ではあるが、論文の形にまとめることを急いだ。まず、アイディアをまとめて日本語論文を執筆し、日本マーケティング学会誌『季刊マーケティングジャーナル』への掲載を実現させた。これをもって、マーケティング学者・実務家から有益な見解を得ることができた。さらに、英語でも論文をまとめ、隔年開催されるマスカスタマイゼーションに関する国際学会MCPCに投稿し、査読を経て学会報告権を得た。マスカスタマイゼーションを肯定的に捉える学会員の多い同学会において、大きな反響をもって迎えられるのと同時に、幾つかの改善点を抽出することもでき、本事業における二年目・三年目に繋がる知的前進をなすことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本事業申請時当初において、初年度の計画は、研究の方法論的基盤となりうる研究分野の先行研究を整理・再吟味することであった。しかしながら、実際には、前頁において報告したとおり、先行研究を整理・再吟味するのみならず、仮説を立てて、便宜サンプリングではあるものの調査を実施して定量データを収集・解析して、いったん論文にまとめ、さらには、それを雑誌や学会において公に発表する段階にまで漕ぎつけ、国内外において一定の評価を得ることができたわけであるから、計画以上の進展をなすことに成功したと自己評価させていただきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本事業は、初年度から既に一定の成果を挙げたわけであるが、初年度の成果は、定量調査およびデータ解析を急いだ点において、さらなる研究の余地を有している。より具体的には、例えば、重視される市場志向によって、マスカスタマイゼーション・システムが限界を露呈する状況が明らかになったわけであるが、それは、当初目論んでいた顧客間差異によるものではなく、産業間差異によるものとして、分析を行った結果であった。産業間差異としてデータ処理を行うのではなく、顧客間差異を見出すべく、消費者データを細かく収集する必要があるのではないかと考えている。 とりわけ、カスタマイズ製品とマスプロ製品の間の消費者選択問題をモデル化した研究はあるが、カスタマイズ製品を受注するマス・カスタマイゼーション・システムが標準化されており全顧客にとって同一であるような店舗と、そのような標準化システムを脱却して個々の顧客にカスタマイズされたカスタマイゼーション・サービスを提供しうるシステムを提供しているような店舗の間の消費者選択問題をモデル化した研究は、取組者が調べうるかぎり存在しない。 本事業は、そのようなモデル化にむけて、着実に前進してはいるものの、いまだ達成には至ってはいない。それを目標に据えて今後も研究を推進し、研究成果を挙げていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
先述のとおり、調査をコンパクトに実施して早期に論文を書きあげることに注力し、また、書きあげた論文をともなって海外学会出張を遂行して成果を挙げた際、出張に要する費用に対して、下記の次年度使用計画に基づいて急遽、当該助成金を適用することを見送ったために、「次年度使用額」が発生した。 本年度の成果を問いつつ一層の研究推進に努めるべく、次年度においては、さらなる海外学会出張の機会を活用させていただくのと共に、当初より予定していた多変量解析のための大規模かつ精緻な調査を実施するのに際して活用させていただきたい考えである。
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