2013 Fiscal Year Research-status Report
持続的社会の実現に向けた保険事業のあり方に関する研究
Project/Area Number |
25380584
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
諏澤 吉彦 京都産業大学, 経営学部, 准教授 (50460663)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 保険 / 持続的社会 / 生活保障 / 災害補償 |
Research Abstract |
官民パートナーシップによる保険スキームは、わが国を含む多くの市場において、自然災害保険、生活保障システムおよび賠償責任保険の分野に広くみられるが、平成25年度はこれらのスキームに共通する特徴が、持続的社会の実現に貢献し得るかどうかを、保険経済学の視点から検討した。自然災害保険が対象とする地震、風水災などのリスクは、損失発生の相関とパラメータ不確実性が高く保険可能性が低いため、補償の制限、公的再保険、保険料率規制および付保強制などの公的関与がなされている。これらの措置は保険会社の支払能力の維持、保険の入手可能性の確保に貢献するいっぽうで、高リスク地域での過度の財物建設などのモラルハザードや、低リスク者のスキームからの離脱といった見かけの逆選択を引き起こすおそれがあることがわかった。生活保障システムでは、逆選択やモラルハザードの問題に対処するために、強制加入の公的保険においては保障を制限することにより保険料を低く抑え、それを超えた範囲で任意付保の民間保険がリスク細分化を伴って提供されるという公的保険と民間保険の二層構造に一定の合理性が見出された。いっぽう自賠責保険や製造物責任保険などに見られる公的関与による過失責任主義の修正は、潜在的加害者に安全努力を促すことで、モラルハザードを縮小し、社会の安全性を向上させ得るものであるが、付保強制やリスク細分化の制限は、逆選択とモラルハザードの問題を一層悪化させるおそれがあるため、強制保険のカバー範囲を限定し、それに任意保険がリスク細分化を伴って上積みされる二層構造のスキームを検討する必要性が見いだされた。さらに、わが国において厳格な保険料率規制の対象となっている自賠責保険と地震保険については、事実上の保険料率の統一が、保険会社がすすんで保険契約を引受け、同時に効率的事業運営を行うインセンティブを高め得るものであると期待された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度においては、持続的社会にむけた保険事業の貢献のあり方について、先行研究からの知見と現状を踏まえて検討を行い、自然災害保険、生活保障システムおよび賠償責任保険における官民パートナーシップに、理論上の合理性があること、また、それと同時にインセンティブ問題などが潜在することを明らかにし、制度設計上の示唆を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を踏まえ、保険事業が、各市場の経済成長と持続性に貢献し得るのかどうかを計量的に分析する。そのため、保険のリスク移転と補償の機能が、企業・組織および個人・家計の活動にどのような影響を及ぼすのかを検討するとともに、実際の市場データを用いた計量分析を行う予定である。分析においては、生命保険事業と損害保険事業では市場に及ぼす影響が異なることが予想されるため、これらの二分野が互いに相乗的または相補的な効果を、経済・社会にもたらすのかどうかを探る。
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