2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25380608
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
三浦 敬 横浜市立大学, その他の研究科, 教授 (50239183)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
張 櫻馨 横浜市立大学, その他の研究科, 教授 (70404978)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | のれん / 減損 / 規則償却 / 国際財務報告基準 |
Research Abstract |
25年度は4年間にわたる研究計画の1年目で、先行研究のレビューなどによる現状の把握が計画の中心である。日本におけるのれんに関する研究の多くは、日本基準と国際的な会計基準との差異をもたらす歴史的な経緯と、それぞれが採用する処理方法の妥当性を検討するものである。のれんの開示がもたらす情報の効果を検証するものはさほど多くなく、研究結果はまだ蓄積されていないのが現状といえる。基準のコンバージェンスが進んでいく中で、のれんに対する「規則償却・減損」から「非償却・減損」への変更は時間の問題といわれているが、のれんの「非償却・減損」は、より有用な情報を提供することができるのか、実務家と研究者の両方が注目している課題である。これまでに行われた日本における先行研究の結果を以下にまとめる。 まず、のれんの減損の公表は、株価に有意な負の影響を与えているが、業種と減損以外で開示される情報による影響を受ける可能性があることが明らかにされている。さらに、のれんの減損による情報の効果について長期的に検証した結果、のれんの減損が公表される1年前から株価に負の影響を与えていることが特定されている。また、その影響は公表後にも続いていることが示されているが、米国市場よりも短いということも確認されている。これは、「規則償却・減損」と「非償却・減損」によるのれんの処理方法の違いによる影響であるとも考えられるが、日本企業のM&Aは救済型が多いことも原因の一つとして挙げられている。 近年米国を中心とする先行研究では、「非償却・減損」の適用によって、のれんの減損ルールが経営者に裁量の余地を与え、利益の操作を誘発していると結論付ける研究結果も出ている。このように、「規則償却・減損」による有用性も再認識されている。これらの結果を踏まえて、2年目の研究ではのれんの償却が経営者の行動に与える影響を検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画に基づくと、1年目の作業には先行研究のレビューのほかに、のれんを計上している日本企業の処理方法を特定し、のれんの会計処理の現状の把握も含まれているが、不本意ながら、作業が遅れており、現状の把握には至っていない。その代わり、のれんの「非償却・減損」が日本企業に与える影響を国際財務報告基準(IFRS)適用企業を対象に、分析を行った。この分析を通じて、本研究の目的の1つである現行の「規則償却・減損」から「非償却・減損」に変更した場合の影響とその傾向をみることができると考えたからである。 IFRS第1号では、適用初年度に他の基準に基づいて作成された前年度の財務諸表は、IFRSに基づいて作成し直すことが要求されている。そのため、IFRSを適用している日本企業を特定すれば、IFRS適用前後におけるのれんの変化を把握することができる。東京証券取引所は2013年9月にIFRS任意適用あるいは任意適用予定企業を集計した。集計結果によれば、それぞれ16社と5社で、合わせて21社ある。これらの企業から米国基準適用企業やデータ入手不可能な企業を除き、9社を対象にのれんの非償却化による影響を分析した。 その結果は、やはりすべてのサンプル企業ののれんの金額は、非償却化の影響で増加していることを確認することができた。また、それが営業利益に与える影響については、明記されていない企業が多く存在していることも明らかとなった。さらに、のれんの減損を計上した企業が3社あることも特定している。のれんの非償却化は、償却費を計上せずにすむようになることによって、利益を押し上げる一方、毎年減損テストを行うことになるため、多額の減損を計上する場合があることも特定することができた。これらの結果は、今後の分析に生かしていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の2年目の26年度では、のれんの処理方法には経営者の機会主義的な裁量行動による影響があるかどうかを特定するための分析作業が中心となる。具体的な作業は以下の3つある。まず、のれんを計上している企業をサンプル企業として特定し、償却期間の長さを分析する。その上で、償却期間の長さと企業の特徴(利益の傾向、経営者の報酬など)との関連の解明を試みる。 それから、のれんを計上している企業のうち、規則的に償却費を計上しておきながら、減損損失を計上している企業を特定し、これらの企業を対象に、計上された減損損失の規模や企業の特徴などを分析し、減損損失の計上タイミングを使った利益操作があるかどうかを確認する。最後に、以上の2つの分析の結果を踏まえて、のれんの規則償却、減損損失の計上のそれぞれの経営者の意思決定との関係を明らかにしたいと考えいてる。以上のプロセスのうち、データの収集と、データを分析できるような形に整理する作業が最も労力と時間がかかるプロセスである。1年目の遅れを取り戻すため、この作業に計画よりも多くの時間と労力を割く予定である。 また、すでにIFRSを適用している企業の実態の把握は、今後におけるIFRSの設定や適用による影響を知る上で重要な情報であると考えられている。しかし、先行研究のほとんどは、米国といった先進国が対象である。すでにIFRSを適用している欧州企業を対象とする研究は少なく、その実態はあまり知られていないのが実情である。そこで、26年度では東欧も含む欧州各国におけるIFRSの適用状況とのれんの取扱いについて現地に進出している日本企業を通じて調査、分析したいと考えている。
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