2014 Fiscal Year Research-status Report
初期ドイツ社会学の形成史―W.ディルタイ、F.テンニース、G.ジンメル
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25380638
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
廳 茂 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (10148489)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自然主義 / 歴史主義 / 相互作用 / 道徳 / 織物 / 公論 |
Outline of Annual Research Achievements |
ディルタイ、テンニース、ジンメル、ウェーバーらの社会理論の前提となっていたのは、19世紀における歴史主義と自然主義の現実像と方法論の対立であるが、この対立が相互の社会理論にどう反映し体現されているかの解明は、ドイツ社会学史上もっとも厄介な難問であり、研究は大変難渋しているが、26年度の研究は少しずつ確実に進捗しはじめている。関係資料収集は、様々のチャンネルを通じて行っており、すでに相当の資料を集め得た。これらの文献は膨大なものであるが、解読に全力を挙げている。明治、大正期の碩学のなかにそれらの一部を読み、貴重なコメントを残している例がみられることもあり、日本の社会理論研究の歴史にかかわる文献の調査も開始している。全体で3000ページにもなる主著で知られるA.シェッフレの読解が一つの大きな壁であったが、昨年度この作業がもっとも進展した。そのことでテンニースにおける自然主義的なアナロジーの用法の意味や、ディルタイ、ジンメル、ウェーバーの相互作用概念ならびに社会的行為概念の使用の前提ともなる、「織物(Gewebe)」という生理学的概念の19世紀後半における社会理論の流入の嚆矢を確認することができた。さらに社会学的空間論と社会学的時間論という、現代の社会学理論にとり大変に重要な論題の初源的形態がシェッフレにおいて見出されることも確認した。この発想はジンメルに大きな影響を与えていたものと思われる。研究成果の一部は、長編の論文として所属研究科の紀要に発表した。さらに26年度は、ディルタイ、テンニース、ジンメルの思想における重要なモメントである規範と道徳のあり方についての思索の検討も進めた。このテーマはかつての科研の研究に付随するテーマとして手をつけていたものであるが、当時の社会理論の近代社会における道徳性をめぐる考え方はきわめて複雑なものである。その実相が解明できつつあると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シェッフレとジンメルの社会理論の研究は、当初の予定以上に進んでいる。ジンメルの長い間未完であった講義ノートが出版されたことも大きく、彼の議論と前の世代ならびに同じ世代の動向との細かな対比が、文献学的に徐々に可能となりつつある。本研究の進展も、そのことにある部分負っている。ようやくジンメルの社会理論をトータルに追跡できる基礎が、整いはじめたと判断している。とはいえ、蒐集した資料をていねいに解読する作業は膨大な時間と労力を要するものであり、迅速に進展しうるような課題ではまったくない。事態が動き始めたというだけでも、評価できると考えている。アングロサクソン系のこの問題への従来の研究水準は確実に凌駕しつつあると思われる。ドイツの研究水準は、もちろん母国語でもありそれなりに高いが、これを十分補完しうる論点を提起できる水準まで達しつつある。テンニースの文献の解読はジンメルほどには進んでいない。この思想家が残した文献の量も空前のものであり、作業そのものは日々進めているが一気に進捗する性質のものではない。ディルタイについては、少なくともその社会理論に関する議論については、ほぼフォローしたが、彼の倫理学思想と当時の社会理論との関係は、まだ詰めなければならない問題として残っている。グンプロヴィッチやヴントなどの同時代の思想家の検討も少し遅れているので、対処せねばならない。いずれにせよ、従来のウェーバー研究に偏ったドイツ社会学史研究の偏りを修正し、補完できる成果は少しずつ着実に挙がりつつあると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
テンニースの学問方法論と晩年の最大の大著である『公論批判』の検討を昨年度から始めているが、まだ中途であるのでこれをある水準までもっていかなくてはならない。とはいえ、後者の書物は大変に難解な大部の書物であり、細かな論点に気を配りつつ研究を進めている。テンニースのこの大著は、日本のメディア・世論研究者にもかつてある影響を与えた痕跡がみられるので、これについても調査したいと考えている。19世紀末の進化論思想の社会科学へ与えた影響も、さらに一層詳細に検討を進める。本科研も後半部に入っていくので、徐々にディルタイ、テンニース、ジンメルの三者の周辺部を構成するマイナーな論者の著作にも配慮していかなくてはならない。この三者を通して社会学の形成をめぐる時代全体の動向をとらえることは、本科研の狙いの一つでもあり、これまでのところ大物の思想家についてはフォローしつつあるが、無名の、しかし重要な作品を残した論者に目を向ける作業が残っている。相互作用の概念や社会の概念とともに、モラルや規範といった重要な概念についても、この三者の思想を相互に対比しつつ一層検討していく予定である。とりわけ研究代表者にとっての関心の中心にあるジンメルの社会理論については、国家、競争、一致、支配などの諸概念をめぐって、従来の研究水準においては達しえなかった詳細な分析水準において彼の思想を明らかにしたい。文献については、かなり集まりつつあるが、未公開の文献ならびに当時パンフレットの形で出たものや会議録が少し集まりにくい事情があり、これの入手の仕方は複数考えられるが、一番経費のかからない方法を検討したいと考えている。
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Research Products
(2 results)