2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25380655
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
金沢 佳子 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), 人文社会科学研究科特別研究員 (10631426)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 喪主身分 / 複数喪主 / 二人喪主 / 喪主・施主並立 / 対等性・平等性 |
Research Abstract |
本研究は、地方新聞の「お悔やみ」欄から喪主選定にみる属性を調査し、現代家族の構造と地域の変容を明らかにすることを目的としている。全国14箇所の県紙「おくやみ」欄から、研究者が発見した「複数喪主」の存在は、興味深い事実を内包しており、平成25年度は、特異地域である長野県東信地方と静岡県中部に特化して、現地調査を実施した。 2008年から2012年における「信濃毎日新聞」では「二人喪主」(研究者が命名)が存在し、「静岡新聞」では、喪主・施主並立が慣行として成立しており、現地葬儀社において一級葬祭ディレクターから葬儀の実態や実情の聞き取りを行った。その結果、高齢男性の葬儀においては、両紙とも「寡婦と長男」という組み合わせが多いものの、「信濃毎日新聞」は、「寡婦と孫」「長男と次男」「○男と娘の夫」という組み合わせも増え、夫婦による「二人喪主」も飛躍的に増加していた。「静岡新聞」では、高齢寡婦の死去においては、他家に嫁した娘が喪主を務め、その夫が施主となるケースが定着していた。「夫婦喪主」(研究者命名)は、夫婦の対等性・平等性を示すものであり、男女平等参画社会の浸透とみてもいいのではなかろうか。故人との続柄に焦点化すると、「長男」が同居ないし近居ではなく、遠隔地別居の場合は、老親と一番関係性の深かった子どもや子ども夫婦が喪主を務めるのが自然という感情が育っており、喪主身分は、世代間継承の対象ではなくなりつつある。 それは、直系家族制から夫婦家族制に移行したとされる家族社会学の通説を覆す結果となり、葬送においては未だ直系家族志向にあって、「家」パラダイムを支えている。しかし、意識や観念の面では「現代家族」としての心性を有しており、両者が状況適合的に絡み合うことによって、家族として成り立っている姿が浮かび上がった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
全国の地方新聞「おくやみ」欄における喪主の掲載数や属性集計が順調に進んでいる。特異地域である長野県東信地区と静岡県中部地区においては、「信濃毎日新聞」「静岡新聞」2008年から2012年の集計調査は終了し、「複数喪主」の全容が把握できたので、現地における葬儀社において、葬儀担当者である一級葬祭ディレクターから聞き取りを行った。その結果、「二人喪主」の中でも「夫婦喪主」は、少子高齢化、なかでも、長男長女による「二人っ子時代」といわれる今日の家族構造を投影させた現象といえた。上記から、「二人喪主」ならびに「夫婦喪主」が登場する地域特性と経年変化について、11月に開催された比較家族史学会秋季研究大会において研究発表を行った。 12月以降は、次年度に予定している旧慣行「姉家督」と「末子相続」の調査準備に取り掛かった。まず、これまでの学説や理論を整理した。次に、プレ調査の段階であるが、今日における「跡取り」と喪主身分との関係について、聞き取り可能な被験者の探索を「姉家督」残存地帯で行っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
(本研究課題の今後の推進方策) 研究計画に沿って、順次、研究を遂行していく。喪主選定において、旧慣行「末子相続」地帯と重なる九州西南部は妻喪主優位地帯である。「姉家督」慣行地帯である東北・北関東は、「婿」と称される娘の夫ならびに他家に嫁し他性となった娘の夫が喪主身分の上位を占めている。武家社会の規範に倣った明治民法が全国一律に推し進めようとした長男相続が困難な様相は、長男規範の喪失・衰微だけではなく、産業構造の変化による家族構成の変容が起因しているともいえよう。核家族化のなかの少子高齢化は、葬礼においてどのような変化と齟齬をもたらしていくか。その点に照準を合わせ、引き続き、地方紙「おくやみ」欄から5年ごとに経年変化を探っていく。喪主選定調査は、人口学、日本文化論、歴史社会学的視座から多角的に少子高齢・人口減少社会におけるさまざまな問題を解き明かすことのできる貴重な研究である。 (次年度の研究費の使用計画) 当初の予定通り、資料収集や資料整理のための費用、調査旅費、学会報告費、資料整理のための謝金および印刷や現像にかかわる費用を計上している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)資料収集(全国地方新聞「おくやみ」欄複写)とその集計作業にあたる人員の謝金を計上していたが、学会報告に向けての時間的制約のなかで協力者の確保が思うようにいかず、自分で行ったため。 (2)調査がスムーズに進行したので、当初想定していた金額より調査旅費が少なく済んだため。 今年度は現地調査を主体とした研究を行うため、調査に必要な物品費(撮影機器・プリント費等)ならびに旅費の予備費にあてたい。
|