2014 Fiscal Year Research-status Report
美的経験のヴィジュアル・スタディ:主観性の社会学に向けて
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25380659
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
安川 一 一橋大学, 社会学研究科, 教授 (00200501)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ヴィジュアル・スタディ / 美的経験 / 美術館来館者 / フォト・ヴォイス / ヴィジュアル・メソッド / 視覚社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究が目指すのは、ヴィジュアル・メソッドによる美術館来館者の美的経験の社会学的記述である。第2年度(平成26年度)課題は、美術館をフィールドとするヴィジュアル・リサーチの実施と、得られた材料を用いて館内経験のヴィジュアル/ナラティヴ・データベースを作成することだった。フィールドは福岡市と横浜市の公立美術館2館とした。前者ではフォト・ヴォイスの手法によるフィールド実験的調査を行った。調査期間中の一般来館者に対し、ディジタル・カメラによる館内撮影と、撮影画像ベースのフリー・トーク(インタヴュー)とを依頼し、得られた画像とナラティヴで館内経験記述を試みた。これをフィールド実験的だとするのは、ヴィジュアル/ナラティヴに分節化され記述される館内経験が、他ならぬ本研究の枠組みにおいて来館者が自らの経験と向き合うことによって引き起こされたものだからだ。総計95件のデータ・セットが得られ、撮影画像とトーク・トランスクリプトとをもとにデータ分析・表象のためのデータベースを構築した。また、得られた画像とナラティヴは集約、プリントして、調査対象の展覧会期間中に館内展示した。成果フィードバックの一環であり、美術館経験の多相的あり方を来館者自身に体験してもらう作業である(ただしこうした2次的経験自体をさらにデータ化する作業は実施できなかった)。他方、横浜市のフィールドでは自叙フォト・エスノグラフィの手法による調査を試行した。大学生13人にタブレットPCを持たせ、館内を自由撮影しながらそのつど自分の体験を筆記記録することを依頼し、得られた画像と筆記記録とを集約、プリントし、これを材料にして参加者によるグループ・ディスカッションを実施した。参加者間で視点と受容の相違が鮮明になるとともに、ここでも調査参加を通じた経験分節化のあり方が確認された。そして、タブレットPCベースの調査の本格実施にめどが立った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度、本研究は計画していたヴィジュアル・スタディを2つのフィールドで実施し、得られた画像とナラティヴをもとに参加者たちの館内経験を表象するデータベースを構築するとともに、ヴィジュアル・メソッドを改良しつつ推進する作業として、一方でフォト・ヴォイス手法の熟成を図り、他方でタブレットPCベースの自叙フォト・エスノグラフィ手法を試行して本格実施にめどを立てた。分析素材収集の進行度はまずまずであり、また、実地で試行錯誤しながら方法開発を進めることができたことにおいて、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。ただし、2つの調査では素材収集が想定以上に多量だったため、とりわけ音声データのトランスクリプト化作業の完成を翌27年度に持ち越すことになった。また、目標としていた調査フィールド数3を果たすことができなかった。フィールド選定にあたって、諸権利(作品の著作権や所有権や映像化件、一般来館者の肖像権やプライバシー)への配慮や、とりわけ調査時の館内全域での自由画像撮影の可否、等々、交渉・相談すべきことが多々あり、現時点でも第3の調査フィールドは確定していない。調査実施時期が予定より送れる可能性は当初計画に織り込み済みだが、フィールド確定を急ぎ、最終(平成27)年度のプロジェクト完遂を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していた平成27年度研究計画を、修正を施しつつ実地に移す。すなわち、1)フォト・ヴォイス手法ならびに自叙フォト・エスノグラフィ手法による美術館来館者調査を実現できる第3のフィールドを確定し、調査実施する、2)調査で得られる撮影画像とフリー・トーク・ナラティヴをもとに、参加者たちの館内経験を集約・表象するデータベースの構築を引き続き進める、3)データベースをもとに、そして、グラウンディッド・セオリー・アプローチ、そして状況分析のマッピングという発想を援用して、「画像介在のアート・トーク」(本研究の枠組みにおいて実験的に生成される来館者の美的経験)の分析的記述を進める、4)以上をふまえて、画像とナラティヴによる美的経験の社会学的記述をめぐる理論的・方法論的検討と方法開発・定式化を進め、あわせて、本研究をふまえて主観性の社会学への展望を批判的・再帰的に考察する。
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Causes of Carryover |
前述のとおり、第3の調査フィールドを確定することができず、目標としていた3回の調査実施のうち1回を実施できなかった。その結果、1回分の調査費用相等額を平成27年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越額は、フィールド調査実施費用にあてられる。ただし、繰越額のうち1/3は、調査で得られた音声データのトランスクリプト作成費用分の支出にあてることを既に決めており、平成27年度のフィールド調査は当初の27年度予算をあわせて実施される。なお、フィールドは地方都市の公立美術館とする計画であり、調査実施にあたって、旅費、物品費[機材、消耗品]、その他[機材レンタル、音声データのトランスクリプト化]の支出が見込まれる。
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