2014 Fiscal Year Research-status Report
日本の戦前期と現代における格差問題の相同性に関する社会学的研究
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25380671
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
永谷 健 三重大学, 人文学部, 教授 (50273305)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 実業 / エリート / 若年層 / 言説 / 俸給生活者 / 学歴主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
明治後期から大正期にかけて、実業エリート層に対する大衆的な批判傾向が強まっていったが、その歴史的・社会的な背景について、おもに次の諸点を考察した。 1.明治期に諸会社を創立した実業家には、若者向け「成功書」のライターや口述者として活動した者が少なからずいる。彼らの成功譚・経歴譚が読まれた背景には、実業での成功を目指す「実業青年」が明治期半ば以降に増加したという事実がある。2.彼ら財閥創始者世代の言説に一定の需要があった点については、「実業青年」の存在に加えて、「高等遊民」の増加という当時の社会問題が密接に関係していた。若年層の進学状況・就職状況は厳しかったが、それにもかかわらず、彼らの多くは高学歴を志向し俸給生活者になる道を選んだ。諸会社・銀行による高等教育修了者の採用が一般化したこと、そして、高等教育卒と中等教育卒のあいだに俸給の顕著な差が設けられていたことなどが影響している。財閥創始者世代の実業家たちの語りは、若年層の高等教育志向や苦学志向に抗い、独立自営的な奮闘を促すという意味で、時代の道徳的な言説になりえた。3.大正中期以降、大戦景気と「成金」時代が終焉して拡張志向の商売・投機の世界に影が差すと、実業家たちの語りは自己矛盾と時代錯誤に陥っていった。不況による商機の縮小、新興企業の淘汰と財閥による事業独占の亢進は、「独立自営」、すなわち革新的事業経営の魅力を減退させた。また、大会社による高学歴社員の採用が進んだことは、若年層の高学歴志向を加速させた。さらに、実業家言説の主役となった次世代の経営者たちの多くは高等教育を受けており、その結果、自営・奮闘言説の説得力は低下した。言説を介した経営者と若年層との協働関係が破綻に向かい、このことが大正期半ば以降に富裕な経営者たちに対する批判的思潮が過激化した一因となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦前期に関する研究は、かなり順調に進展している。ただ、当初予定していた戦後格差社会の現出に関する検討や分析は、作業量が無限であるという点で、やや遅れ気味である。
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Strategy for Future Research Activity |
戦後格差社会の現出に関する研究については、すでに少なからず資料を収集している。平成27年度は追加資料の収集に努めながら戦後社会の検討を前半期で終わらせ、早めに研究の総括に集中したい。
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Causes of Carryover |
戦後階層関係文書資料(データベースを含む)の購入を計画していたが、高額のため購入を見合わせ、次年度に支出を繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の交付金から、戦後階層関係文書資料(データベースを含む)をまとめて購入する予定である。
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Research Products
(1 results)